金正恩体制崩壊の始まり

佐藤勝巳

(2013.5.13)

 

中国、北制裁に踏み切る

 中国がとうとう北朝鮮に対して制裁を科した。中国と北との壮絶な戦いがはじまった。北に対しては、天下の一大事であるが、控えめに言っても東アジアの大激変である。金正恩体制はどこに生きる道を求めるのか。明日何が起きるか分からない緊迫した情勢を迎えている。

 

 中国最大の外為銀行「中国銀行」を先頭に他3行が、朝鮮貿易銀行などの口座を閉鎖した(5月7日発表)である。朝中の貿易代金の送金などは扱えませんよ、ということで、朝中の取引は、現金か、物々交換でやって下さい、という措置である。

 

 米ドルや中国元のキャッシュを持って行っても、売るかどうかは売り手の自由である。北は、重油や食糧などの戦略物資のほとんどを、中国から輸入している。代金決済は、中国銀行と朝鮮貿易銀行を通じて行なっていたとすれば、口座が閉鎖されれば、決算手段を失ったことになる。

 

 代金を支払わないところにモノを売るはずがない。戦略物資、日常雑貨まで途絶えた場合、1ヵ月後の北はどうなるのか。この中国の措置は、北の核を認めないという意思表示(行動)であるが、実態としては、国境封鎖と変わらない中国の北朝鮮に対する「宣戦布告」ともいえるものである。中国から北に陸路持ち込まれている物資の実務手続きは、現在、核実験前より5倍も時間がかかっているという。多分、密貿易の取り締まりも強化されているに違えない。何も知らない30歳の指導者も中国との対立の厳しさに直面、息を呑んで青くなっているのではないかと推測される。

 

活路を何に求めるのか

 この中国に対して金正恩らはどう対処するのか。①中国の要求に全面屈服、核を放棄する。②日本人拉致被害者を帰して、日本からカネを取り、中国に徹底抗戦する。③核兵器を使って中国と一戦をまじえる。④内部矛盾の激化で、クーデター・テロなど政権が崩壊する。基本的にこの4点である。

 

 北が、核を放棄する。核戦争を中国とする、①と③は可能性としては低い。可能性があるのは②または④である。安倍政権はこんな交渉に応じるはずがない「核で火の海にする」などいうナラズモノ集団をどんなことがあっても助けるはずがない。独裁国家と北朝鮮のテロ体質から④の能性が最も高い。

 

中国、制裁発動の背景

 中国が、北朝鮮制裁に踏み切ったのは、このまま行けば、5月7日付本欄「東アジアに核ドミノか」で北朝鮮、韓国、日本、台湾が核武装することは避けがたいと書いた。そうなると中国は、インド、パキスタン、ロシアを加え、あらゆる方面から核兵器に包囲される。この最悪のシナリオを避けるため金正恩に核を放棄させることだ。中国が北の制裁に踏み切ったのは、自国の安保とアジア弱小国の核で、中国の安保が逆に脅かされるという、重大な危機に追い込まれたのである。北に核を持たせたのは中国の判断ミスである(5月7日付前掲欄参照)。その判断ミスのため北に核を放棄させる役割を果たさざるを得なくなったのだ。4月の米中会談は、ポスト金正恩が主要議題であったと推測される。

 

 今までは日本が北に対して制裁を科しても、それを補って来たのが中国である。ここに来て、中国が一転、北に制裁を本気でかけ出したのは、2月の北の核保有だ。北に対する政策で、中国と日本がようやく同一歩調をとることになった。当面、地球上から金正恩体制を消滅させることである。それにしても政治は何が起きるか分からない、怖いものである。

 

米中依存はやめよう

 韓国の朴槿恵大統領は、あの正恩体制と「南北信頼関係のプロセス」とか「日本の正しい歴史認識が必要」などとアメリカ議会で演説した。他方、日本はアメリカに行って日本人拉致救出のシンポジュウムを開催した。いずれも情勢と大きくずれているし、緊張感が全くない。米中が北の核で日韓の頭越しに色々取り決めをするのは、当事者能力欠如という側面があるからだ。朴槿恵大統領と拉致担当大臣の言動がそれを裏付けているではないか。

 

 米中依存の没主体的な安保や拉致救出は、今や危険になってきている。米中の今回の「野合」は国益優先からであるが、しかし自国の国益を犠牲にして、韓国や日本の国益を守ることなどありえないことだ。過去はともかく自国の安保や拉致を米中に頼んでうまくいくはずがない。現実に何も解決していないではないか。情勢は激変している。核を持つ準備を急がなければ、朴槿恵氏のよう米中に利用されるだけだ。必要なのは自主独立の精神であり、日米同盟の強化である。有権者はまず足元の共産党・社民党などの護憲勢力を、7月の参議院選挙で葬る。中国との戦いはそれからである。

更新日:2022年6月24日