北の核には戦略を持って対処せよ

佐藤勝巳

(2013年2月18日)

 

戦略目標の設定

2月12日、北朝鮮が3回目の核実験を行なった。私は、従来から核ミサイル実験をやりたければやらせればよい、という主張をして来た。北朝鮮の核を放棄させるための6者協議の経過を見れば明らかなように、核開発を止めろと言っても止めないうえ、国連安保理は中国の反対で打撃を与える決議ができず、しかも決議内容を中国が率先して守っていない(北の核開発に必要な資材を朝中の密貿易で輸出している)のだ。

 

かくして、3回も核実験をされ、ミサイルに搭載可能な核の小型化に成功した、と報道されている。事実だとすれば、日韓米にとって大変なことである。どうやって日本の安全を確保するのか。安倍晋三首相はオバマ大統領に電話で、北をテロ支援国家に指定し、金融制裁をかけて欲しいと要請したというが、このような泥縄式、他力本願ではなく、わが国が北朝鮮の核にどう対処するか、戦略目標の設定こそが先決であろう。

 

軍拡競争で北を潰す

私をはじめ北朝鮮に関与している多くの人は一致して「あの独裁国家は核ミサイル開発を放棄しない」と見ている。だとすれば安倍内閣には、日本国民の生命と安全が危機に直面しているのだからことは重大なことである。

 

韓国では有名政治家、ジャーナリストたちが、相互抑止しかないと韓国核保有の必要性を次々と主張し出した(本ネット2月14日付。洪熒、国民運動本部、趙甲済、2月21日の産経新聞ななど参照)。私の主張は、かつてアメリカが軍拡競争でソ連を倒したように、軍拡で北の経済を破綻させればよいというものだ。

 

アメリカは信用できるのか

そこで問題になるのは、アメリカの核の傘との関係である。はっきり言うなら常識が全く通じない北を相手に、日本の安全をアメリカに委ねて大丈夫かということだ。この点安倍首相はどう考えているのか。ここがはっきりしないと日本の安保は確かなものとならない。東京上空で核爆弾が破裂したあとで米軍が北を攻撃しても、そのとき、すでに日本人が25万人死亡し、25万人が被爆すると推定されているが、それでは安保にならないからである。

 

目標は北政権打倒

東アジアの平和は、金正恩体制を崩壊させる以外にない、と私は考えている。北政権の体制変革、ないしは崩壊に誘導することを戦略目標としない限り、核ミサイルの開発は止められないから、日本の安全は、北の体制を崩壊に導くことである、という主張である。

 

中国は日韓共通の敵

では体制変革や崩壊にどうやって導くのか。日本は2006年10月から北に経済制裁を科して来た。その後何回も制裁を強めたが、北は「拉致被害者を帰すかわり、金が欲しい」と言って来ないのは、何故なのかを正確に分析しなければならない。

 

中国は長年北に、生かさず殺さず程度の援助を行なって来た。中国が援助する理由は、北の政権が倒れたら、中国が抱えているチベット、新疆ウイグルなど被抑圧民族が、一斉に決起する可能性があり、北の政権を倒さないことが中国共産党の政権維持の「核心的利益」に関わると考えているからだ。この中国の思惑があるから、拉致も核ミサイルも、韓国の自由統ーも困難なのだ。中国こそが日韓共通の敵なのである。

 

この中国の北に対する影響力を抑止しない限り、核も拉致も解決しない構造になっている。日本防衛のために、中国を包囲する戦略を持つべきである。

 

武力が緊張緩和を呼んだ

中国包囲網について考えるにあたって、歴史に学ぶことが肝要である。1968年冬、中国と北朝鮮の間で脱北者をめぐって銃撃戦が行なわれている。1969年3月ソ連との間でも、領土問題をめぐって黒竜江省珍宝島(ロシア名ダマンスキー)で戦火を交えている。死者は中国軍800名、ソ連軍80名と言われ、中国はソ連に徹底的にやられた。後で分かるのであるが、中ソの意見の対立(国際共産主義運動の主導権争い)もあり、ソ連は核戦争を考えていたという。

 

当時毛沢東は、国内でプロレタリア文化大革命を指導し、対外的には同じ社会主義国と上記のような戦争や銃撃戦を行なって完全に孤立しピンチに陥っていた。だが、アメリカと手を結び生きる道を求めた。それが1971年名古屋でピンポンの世界選手権大会の機会をとらえてアメリカに接近、キッシンジャー国務長官の秘密訪中と続いて、1972年には日中間でも国交を樹立した。また北朝鮮と韓国は、72年に南北7・4共同声明を発表、中国はソ連からの攻撃から免れた。今の中国も、周辺国と対立しているという点で当時とよく似ている。

 

中国を包囲せよ

安倍首相がやるべきことは、外交でロシア、中央アジア、インド、東南アジアと手を結び、中国を包囲することである。経済・技術支援などで中国を圧倒することで、中国の内部矛盾(昨年末時点で暴動デモは20万件、1日約500件に及んでいる)を拡大させ、尖閣諸島に艦船や航空機などを投入出来ないようにし、北朝鮮にも援助出来なくし、北政権を崩壊に導き、拉致解決につなげ、韓国は自由統一を実現する。

 

かつて毛沢東が、1971年ピンポン外交でアメリカにすり寄ったように、習近平も日本にすり寄ってくるであろう。中国や北朝鮮に対する外交は、声明などいくら出しても意味がない。かつてソ連が珍宝島でやったように、実害が及ばないと効果がない。当時は核戦争も辞さずというソ連の決意があった。それが第2次世界大戦後、初めて世界規模の緊張緩和(デタント)を引き起こしたのである。武力の裏付けがあって初めて平和が維持出来ることを過去も現代史も教えている。安倍内閣はこれを教訓として学ぶ必要があるのではないか。

 

相互抑止が必要

安倍晋三首相は、集団的自衛権を公約に掲げているが、「非核三原則」の放棄をセットにしなければ意味がない。氏は、オバマ大統領に前記のように北を「テロ支援国家指定」して欲しいと要請したというが、核に対しては核で対応するのが、安全保障の常道である。2008年アメリカは、あれほどわれわれがテロ支援国家指定解除に反対したのに、彼らの間違った判断で日本の意見を無視して解除した。北は半年後に2回目の核実験をしたことを安倍晋三氏は忘れたわけではあるまい。アメリカの判断など当てにならないのだ

 

中国は平和の敵

第2次世界大戦後、米ソは大量の核兵器を持った。だが、核戦争を始めれば双方生き残れないことが分かった。結局、「相互抑止」によって平和が維持されたというのが現実の世界である。しかし、相互抑止という常識が通じないのが北朝鮮の独裁体制である。従って体制そのものを今のうちに打倒しないと、韓国や日本の安全を守ることは出来ない。それなのに中国共産党は、北朝鮮の核開発を中国のよこしまな覇権維持のために追認し、結果として擁護している。われわれから見れば許し難い平和の敵である。従って1970年頃の中国のように、日本は独力でも中国を孤立させるべきである。

 

総力戦が必要である

領土を守り、拉致された同胞を救出するためには、これまでの経緯をきちんと総括して深刻に反省しなければならない。その総括もないまま「私の在任中に拉致を解決する」などという発言は、日本の置かれている厳しい状況を理解していないのではないのか、と不安に駆られる。

 

まず、戦略目標を閣内で意思統一する必要がある。そのうえで経済産業省は、中国進出企業に「領土問題で妥協はない。再度反日デモの可能性がある。リスクの少ない地域にシフトするか、中国に残るかは自由である。ただし被害は自己責任である」旨告知すべきだ。個別企業の利潤確保のために領土を中国に渡すことなどありえないことを政府は断固として経団連並びに国民に表明すべきである。その意思表示でワシントン、北京は日本政府が本気だということを知るであろう。そこではじめて政治が動くのである。

 

国民運動で戦う

次に最も大切なことは、「集団的自衛権と非核三原則の放棄」について、国民の理解と協力を得ることである。これは絶対的必要条件である。憲法改正を唱えている自民党と維新の会は、「領土を守り、拉致を救出する」ための都道府県単位の集会を早急に組織すべきだ。天下分け目の戦いである。

 

もし、尖閣諸島で軍事衝突が起きたら(その可能性は高い)、社民党、共産党、自民党河野洋平・加藤紘一氏ら護憲グループは「戦争反対」と言って必ず国益の前に立ちはだかってくるであろう。

 

自民党・維新の会は、このグループと徹底的に戦い、勝利しない限り、「戦後体制の脱却」などありえない話だ。このようなグループに世論を奪われないため、早く国民を組織しなければならない。現状の深刻さを真剣に国民に訴え、「護憲グループ」の策動を事前に封殺する必要がある。「国土防衛、拉致救出」の行動を起こせば、国家の命運をかけた戦いであるから、国民は必ず支持するであろう。

 

「国土防衛、拉致救出」を選挙の争点に

幸いに7月は参議院選挙である。「国土防衛、拉致救出」を選挙の争点に据えて戦えばよい。具体的には、小泉新次郎、橋本徹氏ら若い政治家のパワーを中心に、救国の旋風を巻き起こして、日本の危機を乗り越えて欲しい。

更新日:2022年6月24日