安倍晋三衆議院議員殿

佐藤勝巳

(2012. 9.24)

 

自民党総裁に立候補され、テレビなどで毎日のようにお顔を拝見しています。お元気の様子、何よりです。産経新聞(9月17日)の「金正恩に決断迫ること必要」というインタビュー記事を読み、急ぎお手紙を書く気になりました。

 

歴史に名が残る政治家

安倍さんが拉致問題に関わったのは、1988年有本恵子さんがピョンヤンから肉親に手紙をよこした時から、と伺っております。随分長い期間になります。国会議員(1993年)になってからも拉致議連のメンバーとして活躍し、小泉内閣では官房副長官として拉致救出の政府の要となり、総理大臣になってからは拉致対策本部を設置して自らが本部長となり、救出の陣頭指揮を執られました。間違いなく拉致救出では歴史に名が残る政治家と、私は外交辞令抜きに思っています。

 

 冒頭の産経新聞の安倍さんの発言を読んで、おやっと思いました。前述のように、当時「救う会」会長であった私も救う会も、拉致や核開発に対しては制裁が必要と主張し、実施を要請してきました。しかし拉致も核も、今もって一向に解決しません。会長を退いた後も私は、経済制裁でなぜ拉致や核が解決しないのかを考えつづけてきました。安倍さんがこの事実をどう捉えているのか、関心を持って読みましたが、全く言及がありませんでした。おやっと思ったのはこの点です。

 

 解決の方法について安倍さんは「日本側の要求を受け入れなければ、やっていけないとの判断をするように持っていかなければならない。だから、圧力以外とる道はない」のだと発言されています。従来と同じ政策を継続するということなのでしょうか。

 

拉致解決を妨害している中国

私の考えを述べさせて頂きます。日本政府が北に経済制裁を科しても、日本人拉致被害者を釈放しないのは“困っていない”からです。困らない理由は、中国の支援です。中国にとって北朝鮮は、自国を守る緩衝地帯として存在させておきたいのです。北の政権が不安定となり倒れるようなことになれば、韓米が中国国境まで勢力を拡張してくる可能性が高いと判断する中国にとって、北へのあらゆる面での支援は、中国帝国主義の誤った「核心的利益」を守る行為なのです。

 

ですから、日本の北に対する経済制裁は、中国の核心的利益を脅かす甚だ迷惑な政策と中国には映じている、と私は分析しています。安倍さんは産経新聞紙上で、中朝関係について一言も言及されていませんが、拉致が解決できないでいるのは、中国が妨害しているからに他なりません。日本と中国の国益が正面から衝突しているのです。しかし、安倍さんは「圧力以外とる道はない」と発言されています。「圧力」の中身が経済制裁の強化なら、従来と同じように中国は北を支えます。従って拉致の解決には繋がりません。安倍さんは、どんな圧力をお考えなのでしょうか。

 

領土領海を守る手段は何か

安倍さんは総裁立候補の挨拶の中で、「領土、領海は守らなければならない」と強調していましたが、具体的にどうやって守るのでしょうか。石破茂氏は海兵隊を設立、それで守るべしと言っていましたが、私の現状認識とはまるで違うと思って聞いていました。中国が尖閣に、李明博大統領が竹島に、ロシアのメドベージェフ大統領(当時)が北方領土に現れたのは、日本の領土を奪取に出てもアメリカは日本を守るために戦争する意思も能力もない、今だ、と判断したからではないでしょうか。アメリカの力の衰退です。そうだとすれば、海兵隊の創設などではないはずです。

 

 アメリカが膨大な財政赤字を抱え、身動きできないでいることは客観的事実です。この場合、わが国の安全を守るのはわれわれ以外にないはずです。もっと言えば、尖閣を、昨今の中国における「反日暴動」から邦人の生命財産をどんな手段で防衛するのか、です。

 

今日までに日本大使館がやったことは、邦人に「外出しないように」「日本語を使わないように」という指示だけです。自民党政権ならどうするのか、各候補は見解を示すべきです。自己主張の絶好のチャンスのはずです。

 

 中国は、尖閣諸島に漁船が隊列を組んで大挙押しかける旨の報道をしていますが、領海内に入ったら撃沈しなければ尖閣に上陸してくるでしょう。文字通り「平成の黒船」なのです。明治維新前と違って、現在の日本は軍事力を保持しています。「領土・領海」侵犯に対しては軍事力を行使し、追い払うのが最低限の主権行使です。安倍さんの言う領土領海を守るということは、軍事力の行使が含まれていると理解してよいのでしょうね。

 

暴動ではなくゲリラ戦だ

中国にいる日本企業の幹部が、このたびの「反日」は「暴動でなくテロだ」とテレビカメラに向かって叫んでいましたが、日本人の生命財産を中国当局が保護しないどころか、容認して破壊、放火、略奪をやらせたのです。中国に日本の軍隊を派兵して邦人の生命財産を保護するのが政府の最小限の義務と考えていますが、安倍さんはどのようにお考えですか、お聞かせ下さい。自民党の支持率が今一つ上がらないのは、民主党とどこが違うのか、よくわからないからです。

 

安倍さんの対立候補の一人、石原伸晃幹事長は尖閣を中国との外交で解決せよと主張していますが、中国共産党は日本企業の財産を破壊・放火、略奪させたのです。破壊の翌日は、見事なまでにデモを規制しました。このように共産党の組織力は、健在なのです。党が、意図的に破壊、放火などをさせたのです。さらに尖閣諸島に哨戒艦を10隻以上も派遣して、領海侵犯を公然と実行しています。この二つの事実は宣戦布告なき「現代のゲリラ戦」と私の眼には映りました。石原氏は何をどう話し合うのか。外交の基本は政治、経済、軍事、文化などの総合力が勝負です。相手が武力行使をしてきているときに、それに対応する措置を取らないで、外交云々するのは後述の藤村修官房長官発言と同じナンセンスなことです。

 

国民の生命財産を守る意思の無い民主党

しかし野田内閣には、中国で起きている事態が現代の「ゲリラ戦」と映っていないから、藤村官房長官は「あらゆる事態に備えて万全の対応を検討しています」と信じがたい能天気なことを繰り返しているのです。日本企業の役員が、暴徒に襲われ、従業員を13階に避難させている映像が放映されたのを外務大臣や官房長官は見ていたはずです。私なら、従業員救出のヘリの出動を中国政府に求めます。中国が救出に動かなければ、独自に邦人救出に動く旨中国に通告、その手続きに入ります。それが「万全の体制」というのではないのでしょうか。

 

民主党がいかに現実からずれているかは、民主党、党代表選挙の候補たちは、尖閣諸島の尖の字も、日本人の生命財産をどう守るかなど最後まで話題にならなかったようです。中国の日本への「ゲリラ戦」は、誰が、本当に国民の生命財産を守ってくれるのか、総選挙前の有権者に、貴重な判断材料を提供してくれました。しかし「ゲリラ戦」というとらえ方は「日本維新の会」、自民党、いやどこの政党からも聞こえてきませんでした。私の現状認識が間違っていることを祈っています。

 

非核3原則の放棄

そこで、どうやって拉致被害者を取り返すかです。安倍さんが首相に就任された直後に、北朝鮮が核実験を強行しました。当時、自民党の政務調査会長であった故中川昭一さんが、NHKテレビの日曜討論(2006年10月15日)で、北朝鮮の核実験に関連して「核保有の論議が必要」と発言したら、ライス国務長官が東京に飛んできて、「アメリカの核の傘で日本を守る」と記者会見で強調したことは、記憶に新しいことです。北京、ピョンヤンにも異常な緊張が走りました。そのとき私は日本の核カードの力を改めて認識しました。当時安倍さんは首相ですから、私の何倍も感じたと思います。

 

アメリカに恩を返すときだ

アメリカの負担によって、こんにちの日本の繁栄があるのですが、安倍さん、この恩をいよいよ返すときが来たと私は考えています。それは核を作らず、持たず、持ち込まずの「非核3原則」の放棄です。そうすることでアジアにおけるアメリカの負担を削減すると同時に、日本の安全保障をより強固に出来ます。そうすれば中国の「反日」などすぐ静かになると思います。そして拉致も容易に解決できます。主要な敵は中国です。安保政策の転換を決断するときだと思います。そのためには、国民の意識を変える必要があります。安倍さんのリーダーシップを期待しています。

 

自己責任で処理

私は、中国に進出している2万社の日本企業のすべてとは言えませんが、利潤追求に目がくらみ中国を見誤ったのです。少し調査すれば昨今の事態は容易に予測されたことです。

「外国資本は国有化する」と言われなかっただけでも儲けものです。誰も恨むことはありません。共産主義国家で民度が低く、不満が鬱積しているところで、金儲けなどできるはずがありません。報道によれば、進出日本企業は横断幕や、ステッカーで尖閣諸島は「中国領である」旨の態度表明をしたということですが、絵にかいたような売国奴です。企業の判断ミスが、国家に弓を弾く恥ずべきことになったのです。自己責任で処理すべきです。

 

安倍さん、差し当たっては総裁選挙に勝利することを期待しています。

更新日:2022年6月24日