李明博大統領に抗議する(下)

佐藤勝巳

(2012.8.24)

 

価値を共有できない韓国大統領

 日本が韓半島を支配したのは35年間である。韓国は、独立して67年が経過している。日韓基本条約と関連協定で植民地支配の後始末が終わって46年が過ぎている。しかし大統領は「従軍慰安婦」など解決済みの問題を口にしている。韓国と条約や協定を締結しても意味がないことを行動で示した。

 

 日韓基本条約に不満があるなら、条約の改訂を正式に日本に提起すればよい。しかし、それはしないで、結んだ条約や協定を守らなければ、法治国家ではなない。日本とは価値観を共有できない政権である。こんな李政権と日本がつき合っているのは、独裁国家北朝鮮の赤化統一を許すわけにはいかないのと、北の核に反対するための二つである。李明博政権を評価しているのではない。誤解されては困る。

 

 そもそも他国に植民地支配されることは、理由の如何を問わず、当事者にとって名誉でも、誇れることでもないはずだ。しかし、韓国歴代大統領は不名誉のことを根拠に「謝罪と償い」を求めてきている。これは誇りある人間のとるべき態度ではない。

 

 例えば朝鮮日報の主筆であった鮮干煇先生をはじめ、先生と同世代の韓国知識人に何度かあう機会があった。植民地支配からの解放、韓国動乱、学生革命、赤化統一の危機、クデター、経済発展など激動の中を共産主義と闘ってきた人たちの口から「謝罪と償い」など、どなたも口にしなかった。だから一言一言に千金の重みがあった。

 

 李明博氏は、「謝罪と償い」を誠に気軽に口にしている。日本の戦後世代も「贖罪」「民族的責任」「被抑圧民族の無条件支持」など、こちらも気軽に口にしていた。彼らにとって植民地云々は所詮観念の世界にしか過ぎないから軽いのだ。李明博氏ら若い世代は、自国が他民族から支配された理由を冷静に分析、その弱点を克服し、再び他の民族に侮られないような国家構築に全力を注ぐべきだろう。しかし、そんなことは全くしていない。

 

 やっていることは「従軍慰安婦」問題だ。韓国内では慰安婦(売春婦)を徹底的に差別している。ところが李大統領や韓国マスメディアは、日本に対しては、自分たちが差別している慰安婦の味方として立ち現れる。酷い欺瞞と倫理観の退廃である。ソウルの日本大使館前に、売春婦の像建設を黙認する政府の態度は、無礼このうえない措置であると同時に、李明博政権の知的水準を示すものである。

 

韓国はダメな日本以下か

しかし、問題なのは大統領だけではない。オリンピック・サッカー場での3位決定戦で日本に勝った韓国人選手の1人が「独島は、わが領土」というプラカードを手にして、聴衆にアピールした。

 

 IOCは、オリンピック憲章違反として、処分を検討していると報道されているが、この大統領にしてこの選手あり、と私の目には映った。国内でやっている「反日」を、そのままこともあろうにオリンピックでやってのけたのだ。

 

 さらに驚いたのは、韓国を貶める行為を五輪会場で行なったことを、ジャーナリストで批判したのは趙甲済氏1人。他の言論人やマスメディアは、口を閉ざして批判しなかった。なぜ批判しないのか。

 

 あのサッカー選手と同じ考えを持っていたからか、仮に違和感を持っても、口にすれば、「お前は親日か」と攻撃される。だから口にしないのだろう。つまり「反日」は、韓国世論の最大公約数であり、国民が団結できる「元気の源」なのである。従って「反日」は、李明博氏の落ちた支持率をアップさせるもっとも安易な手法なのだ。だが、こんなことが元気の源でよいのかと、大統領は疑問に思わないのだろうか。

 

 李大統領をはじめ韓国人が、本当に日本はダメだと思っているのなら、こんなダメな日本にどうして支配を受けたのか。真摯に考察せねば、韓国はダメな日本以下ということになる。自国を貶める「反日」が「愛国行為」であろうはずがない。韓国政権の質は極端に低下したと思わざるをえない。

 

特異な韓国

 そもそも韓国の「反日」とは何なのか。突き詰めて言うなら「韓国を支配した日本はけしからん」という感情の吐露である。だが、世界の歴史は不均衡に発展し、その結果、強い民族や国家が、弱い民族や国家を支配する現象が18世紀から19世紀にかけての産業革命以後以降、地球上のいたるところで発生したことは周知の事実である。

 

 日本の朝鮮半島支配は、当時どこにでも見られた世界史のー現象であり、謝罪せよとか、するとかという問題ではない。現に、植民地支配を理由に謝罪せよ、などと言っている独立国は世界のどこもいない。韓半島の北と南だけで、世界史的に見て極めて特異な現象なのである。

 

日本進歩派の犯罪

 なぜ特異な現象が韓半島でだけ起きるのか。これは日本側に半分の責任がある。特に、旧日本社会党や進歩的文化人、労働組合幹部、偽善的宗教家、そして朝日新聞、雑誌「世界」や、「良心的」なポーズをとる戦後世代の進歩派が、1970年頃から「贖罪」とか「民族的責任」などと誤ったことを言い出し、東大の和田春樹名誉教授らに代表される謝罪派が日本国内に形成され、韓国を勢いづかせたのである。

 

 進歩派のやったことは「無責任」のー言に尽きる。なぜなら、韓国の日本への謝罪要求は、かつて韓国がなぜ日本の植民地になったのか苦痛を伴う自己検証を避け、責任を他に転嫁する「麻薬」だからだ。日本の進歩派は「贖罪」と「民族的責任」という美名のもとに、その「麻薬」の使用を煽ったのだ。日本進歩派に日韓関係を語る資格はない。

 

 韓国は、1992年中国との国交樹立にあたって、植民地支配に対する謝罪を中国に要求したが、中国は受けつけなかった。外交は相手との力関係によって決まる。韓国政府は、「謝罪しろ」と言うと動揺する日本に、今後も言い続けるであろう。相手にしない中国には口にしないであろう。所詮「謝罪と償い」とはこの程度のものである。

 

「通貨スワップ」延長に反対

 野田政権は、李明博大統領の言動は非友好的であるから、昨年10月、日韓で締結した「通貨スワップ」を延長出来ないと拒否すべきだ。昨年のヨーロッパ金融危機に際し、もしも、日韓が外貨支払いに困難が生じたら、相互に援助しあう金額を700億ドル(約5兆5千億円)と合意した。しかし日本は昨年、外貨不足で支払いに困ることなどなかった。

 

 韓国は、外貨支払いに赤信号がともっていた。上記「通貨スワップ」は、実態として日本の韓国支援策なのだ。共通の価値観を持たない政権に、「1000兆円もの赤字に苦しむわが国が援助する必要など全くない」というのが私の主張である。もしわが国政府が「通貨スワップ」をそのまま延長したら、李明博大統領は反日の「成果」と受け取り宣伝することは間違いない。次の大統領も同じことをするだろう。

 

 アメリカ経済が陰りをみせだして来た。金融危機再来の可能性が高まってきている。日本は、そのとき非友好、李明博政権を援助してはならない。自分の言動に責任を取ってもらうべきだ。野田内閣は「韓国の出方を見て対抗措置を講じる」と言っているが、この原則を崩してはならない。

 

中國に「学べ」

 今までの自民党政権は、対等の日韓関係を作る努力をしなかった。野田政権は毅然としてこの悪循環を断ち切って欲しい。そうしてこそ初めて日韓の友好関係が築かれる。民主党政権に交代した意味も生まれる。中国、ロシアに対してもこのスタンスを堅持すべきである。

 

 中国は、わが国の警備艇に漁船を体当たりさせ、船長が拘束されるや因縁をつけて日本人4人を逮捕、レアアースの値段を釣り上げて来た。わが国政府は、中国政府のこの手法を学習すべきである。そして同じことを日本が中国に適用すれば、尖閣諸島の海はすぐにでも静かになるだろう。

 

 日本の企業は、韓国の企業に対して「過去の歴史」を「配慮」、ビジネスだけではない、いろいろなサービスをして来た。この「日本的配慮」が、韓国に「日本の弱み」として受け取られ、「反日」を再生産してきた側面もあった。

 

 最近、韓国生産力の象徴ともいえる哺項製鉄所が、新日鉄の核心的技術を盗んでいた事実が明らかになり、1000億円の損害賠償訴訟となっている。大統領を先頭にここまでに「反日」、非友好的な態度をとるのであれば、韓国が必要としている諸々の電気部品の輸出先を考えなければならない、との声が産業界に出だしている、という。

 

 そうはいっても「反日」が韓国を貶めているとの批判をしたのは、田中明・佐藤勝巳の「『謝罪』すれば悪くなる日韓関係」(月刊「文藝春秋」平成4年3月号)しかなかったことはどういうことなのか。日韓の友好をまじめに考えているなら、日本人はなぜいうべきことを言わないのか。そのつけが、昨今の日本領土の「侵略」という形で表れてきているのである。

 

 他国に侵略され「社会保障と税の一体改革」などいっても意味がなくなる。今度は安全保障のために野田総理は、政治生命をかけて解決に当たって頂きたい。(了)

更新日:2022年6月24日