李英鎬政治局常務委員解任

佐藤勝巳

(2012.7.17)

 

李英鎬の解任発表

李英鎬政治局常務委員(69)は、病気を理由に7月15日の政治局会議で「全ての党の役職を解任された」と国営の朝鮮通信が報道した。

 

李英鎬は総参謀総長でもあったが、そのポストについての言及はない。しかし、全ての党の役職を解かれた人間が、軍事面のトップの総参謀長に留まるとは考えられない。

 

「宮廷クーデター」の進行

ネット「現代コリア」では、6月14日付「四面楚歌、鳴りを潜めた金正恩体制」(洪熒・佐藤勝巳対談)の中で、軍内の党のトップ、総政治局長が軍人出身の序列4位の李英鎬ではなく、青年同盟出身の非軍人崔龍海が政治局常務委員に昇格し、軍総政治局長に就任したことは、「宮廷クーデター」が起きたのだと断定した。その上で、この人事には中国の影が感じ取れるから、「宮廷内のクーデターの推移」を注目したいと話し合ったばかりであった。

 

そして1ヵ月後。クーデターは、李英鎬政治局常務委員の「党役職の解任」という形で進行していたことが改めて明らかになった。

 

パージで緊張

今まで、政治局常務委員クラスで病気のため職務を遂行できない幹部は、趙明録前総政治局長をはじめ沢山いた。しかし、病気を理由に役職を解任された例は記憶にない。李英鎬は権力闘争に敗れたと判断してよい。既にこの世にいないのかもしれない。これから李英鎬に連なる人脈のパージ、そして抵抗が続く過程で何が起きるのか、鋭い緊張が予測される。

 

中国の属国か

2週間ほど前、韓国の「朝鮮日報」が次のようなニュースを報じていた。韓国軍の予備役の将官が北京を訪問し、中国人民軍のトップに会った。そのトップは、北朝鮮に核実験も、韓国に対する軍事挑発もさせない、と断定的に発言しただけではなく、金正恩が改革開放政策に興味をもって勉強しているとも言った、というのである。この報道が事実なら、北朝鮮は中国の属国であり、李英鎬グループの失脚もこの文脈から読み解くことができる。

 

いまひとつ、北朝鮮の国内事情である。旱魃なども重なって食糧事情の逼迫が更に進むなか、軍内過激派のミサイルや核実験の強行は、国際的な孤立を招く自殺行為ということで、宮廷内(政治局会議)で多数派になるのは難しかったと推測される。

 

注目すべき改革開放の行方

それにしても、金正恩が「改革開放政策に興味を示し、勉強している」という中国軍のトップの発言は、今後の北朝鮮情勢をみて行く上で非常に注目すべきものである。

更新日:2022年6月24日