茶番劇の「米朝合意」の深刻さ

佐藤勝巳

(2012. 3. 6)

 

アメリカと北朝鮮が「ウラン濃縮の一時停止に合意した」(2月29日)という発表に、オバマ政権も、ブッシュ政権と同じ道を歩き出したのか、と暗い気分に陥った。アメリカは北に何度騙されたら気が済むのだろうか。そして韓国と日本も、アメリカにどこまで馬鹿にされたら気づくのか。韓国はともかく、情けないわが国の無残さを再確認しなければならないことは、まったくもって辛い話である。

 

オバマ政権は、北と交渉に入る前にモノやカネは与えない、と繰り返し言ってきた。ところが、北の発表によると今回の合意は「ウラン濃縮の一時停止する期間は」、「実りある会談がおこなわれている限り」だという。

 

実りある会談であるかどうかは、北の判断によるものであるから、この一点だけでも、アメリカは、北に大豆やトウモロコシを混ぜ合わせた栄養補助食品最低24万トンを間違いなくタダ取りされる。断言してよい。

 

アメリカはプルトニウムの核開発を停止したと言っているが、北はこの点に言及していない。「追加の食糧支援に努力する」ことにも合意したと北は言うが、アメリカは言及していない。こんな滅茶苦茶な「合意」があるだろうか。

 

国際原子力機関の査察官の活動範囲も寧辺地区に特定されている。1994年第一次韓半島核危機以来、共和党、民主党も甘さにおいて同じだ。そこに差異を見出すことは出来ないのかは、アメリカの安全保障にとって北の核ミサイルの脅威は限りなくゼロに近いからだ。だから、24万トンの栄養補助食品で北のウラン濃縮を一時停止させることが出来れば安いものだ、という馬鹿馬鹿しいまでのいい加減な対応になるのだ。アメリカは過去にも、北に2回騙されて石油をタダ取りされている。今回で3度目だ。外交を弄んでいるとしか言いようがない、酷い話である。

 

なぜ、こんな信じがたいことをアメリカ国務省が平気でやるのかと言えば、北の核に対して最も脅威を感じなければならない韓国と日本の安保に関する姿勢が軟弱だということに尽きるからだ。日韓両国は自国の安保について、イスラエルとは際立った違いを見せていることは周知の事実だ。

イスラエルは、周辺のアラブ諸国が核兵器を開発していると分かれば、空爆で核施設を爆破してきた。現在はイラクの核施設の爆撃を準備している。爆撃をめぐって近くイスラエル首脳とオバマ大統領と会談すると伝えられている。

 

野田佳彦首相が、北朝鮮を爆撃するなどと言わなくとも、核弾頭開発をほのめかすだけで、オバマ大統領は東京に飛んでくることは確実である。なぜなら自民党故中川昭一政調会長(当時)は、2006年10月15日NHKの日曜討論で北朝鮮の核実験に関連して「核保有の議論が必要」と発言をしただけで、ライス国務長官(当時)が東京に飛んできて、「日本をアメリカの核の傘で防衛する」と慌てて表明したことは記憶に新しい。

 

本気になって自国の安全を守ろうとしていないから、アメリカを初めどこからもなめられ、拉致すら解決できないのだ。ブッシュ前大統領は、日本人拉致救出に深い理解を示した。だが、政権末期になると、結局「テロ支援国家指定」を解除してしまった(08年10月)ことから、このたびの米朝合意も、11月の米大統領選挙向けのパフォーマンスの一つであることは明らかだ。

 

日本は拉致救出などで北に制裁を科している。「同盟国アメリカ」はその独裁国家に食糧支援をする。こんなふざけたことをアメリカが行なうのは、わが国が、自国の安全や拉致救出をアメリカに依存しているからだ。だからアメリカは何をやっても大丈夫と思って北を支援するのだ。「テロ支援国家指定解除」のときと同じ構造である。

このようにわが国がなめられるのは、われわれが自国の安保問題や拉致を自主的に解決すると言う主体性の欠如にあることはイスラエルの例を引くまでもない。

更新日:2022年6月24日