朝日新聞社説「ロ朝首脳会談―日本も変化に遅れるな」を糾す

佐藤勝巳

(2011. 8.29)

 

雀百まで

朝日新聞8月26日付「ロ朝首脳会談―日本も変化に遅れるな」と題する社説を読み、また始まったかと不快感にとらわれた。この新聞は、今まで北朝鮮が何か一言いうと“変化だ”“変化だ”と大騒ぎし、総聯とー緒になって「バスに乗りおくれるな」と世論を誤誘導して来たよくない報道機関であった。しばらくこの類の社説が見られなかったのだが、「雀百まで踊りを忘れず」とはよく言ったも、また始まった。

 

6者協議再開に動け

朝ロ首脳会談(8月24日)で、北朝鮮が、①6者協議に無条件で復帰すると表明、②核・ミサイル製造・実験を一時停止する用意がある旨発言、③双方で、天然ガスのパイプラインをシベリア→北朝鮮→韓国まで設置することが話し合われたという。

上述の社説は、6者協議無条件復帰は当然で、ウラン濃縮に言及していないのは全く評価できないとした上で、ロシアは「資源、エネルギー、電力などの面で東アジアでも影響を強めてきている。その潜在力を生かして、北朝鮮をめぐる状況を好転させる役割を担えるはず」であり、中朝、米朝も動き出している。「北朝鮮問題も、やっと協議再開を探るきっかけができつつある。こうした環境の変化に、日本も機敏に対応し、乗り遅れないようにしよう」と6者協議再開に動け、という提案である。

 

6者協議のメリットは何か

まず素朴な疑問として、この論説委員は6者協議にどんな「効力」があると考えているのだろう。6者協議は、2003年8月から始まった。目的は北朝鮮の核軍縮協議である。それが呆れたことに、核軍縮を促すはずの金正日政権に、2006年10月と2009年5月の2回、核実検を強行され、その上日本を除く米、中、ロ、韓国の4カ国は、金正日に重油をただ取りされている。

日本人拉致問題に関しては、6者協議の枠内で話し合うことになっているが、北は無視し続けている。また、2002年の「日朝平壌宣言」の中に「朝鮮民主主義人民共和国側は、この宣言の精神に従い、ミサイル発射のモラトリアムを2003年以降も更に延長していく意向を表明した」とあるが、金正日は2009年ミサイル発射実験を太平洋に向けて大々的に実施した。金正日政権は、6者協議などで約束したことは何ーつ守っていないのだ。

 

金正日の何が「変化」したのか

2009年4月、国連安保理議長が、北のミサイル実験を非難する声明を出した。すると金正日は、それが怪しからんと言って6者協議に「再び参加することは決してない」(北、外務省)と捨てゼリフを国連に投げつけて、協議参加を拒否したことは周知の事実だ。

リビアの独裁者カダフィは事実上打倒された。シリアの独裁者アサドも激しい抵抗にあっている。独裁者金正日が危機感を持たないはずがない。この時期の訪ロ、訪中は、「俺のバックに中国、ロシアがいる」という内外への示威があったことは間違いなかろう。朝日新聞の社説は、6者協議「再開を探るきっかけができつつある」との認識を示しているが、具体的にそれは何なのか。社説を書いた論説委員には説明責任がある。答えて欲しい。

 

なぜ、日本のやるべきことに触れないのか

北朝鮮の核・ミサイル、拉致は日本の安全保障にとって死活の問題だ。しかるにこの社説は、日本が何をすべきかに全く触れていない。なぜ触れないのだろう。日本国民が拉致されているのに、どうすれば解決できるのか、考えている気配もない。「日本列島は日本人だけのものではない」という鳩山由紀夫氏の発言と低通しているものを感じる。

論説委員は、ロシアの東アジアにおける資源、エネルギー外交であり、それが北朝鮮情勢に「好転」を与えるはずだと推論している。

そういう側面がないとは思わないが、ロシアはソ連時代に110億ドル、現在の円換算で8500億円を北朝鮮に踏み倒されている。このパイプラインの敷設は、ロシア側の北に対する借金の取り立てと関係ないのだろうか。私の知る限り、朝ロ、朝中関係は、社説が考えているほど美しくも清くもない。物を買って代金を払わないのであるから、取立てはドロドロした「裏世界」の関係と似てくる。

 

あまりにもひど過ぎる

それはともかく、北朝鮮を見るときに注意しなければいけないのは、日本的価値観で相手を計ってはならない、ということである。金日成・金正日は1970年代、工作員(公務員)を非合法で日本に侵入させ、暴力で日本人拉致を指令した政治家だ。

この前近代的な体質をどう見る(評価する)かが、北朝鮮分析の基本中の基本である。核を削減させるといって交渉している相手に、交渉中に2回も核実験された。それを曖昧にしてまたぞろ6者協議を云々している。これは果てしない誤判断の繰り返し、安保の放棄、国家の自殺行為の道に他ならないのだ。

本来なら社説は、再び失敗しないために日本政府に6者協議の「総括」を求めるべきなのに、逆に「日本も変化に遅れるな」という。北の工作を受けて書いたのではないだろう。だとすれば、知的退廃の極地である。それにしてもあまりにも無責任過ぎる。

更新日:2022年6月24日