大衆迎合と国家財政の破綻

佐藤勝巳

(2011. 6. 7)

 

私は、鳩山由紀夫氏こそ日米関係を目茶苦茶にした「政治的ペテン師」と思っていた。その男が、菅直人首相を「ペテン師」と呼んだ。民主党に関係ない人から見れば、コップの中の嵐にもならない話であるが、民主党の「水準」、人間の「軽さ」を知る上で、格好な「学習教材」であった。

 

だが、自民党も過去、類似の権力争いや、権力のたらい回しを何度も繰り返してきたことは記憶に新しい。われわれにとってこの種の授業料は避けられないのかも知れない。

 

このドタバタ劇に対して、大震災復興、放射能汚染阻止が緊急課題なのに「“政争”とはなにごとか」という批判の声が聞かれる。逆に、だからこそ「無能な首相」を替える必要があるという反論もある。リーダーシップを発揮できる政治家を国民は求めているのだが、菅直人首相と自民党谷垣禎一総裁のどこがどう違うのか、私も、多分国民もよく分からないのではないか。

 

菅直人首相辞任の後に、民主党、自民党などの連立政権が仮に出来たとしても、戦後の「平和と民主主義」、飽食の時代に育った政治家たちは、何が危機かも分からない(本ネット5月9日「なぜ『緊急事態』を宣布しなかったのか」参照) 様子である。危機を乗り切る勘も手段、根性も持ち合わせていないのではないかと危惧する。

 

しかし、こんな民主党議員を多数当選させ、権力を与えたのは有権者であることも間違いない。谷垣禎一氏も菅直人氏も同質で見分けも出来ないとなれば、日本の政治の現状は有権者の意識の反映と言わざるを得ない。

 

なぜこんなことになったのか、その理由は沢山ある。900兆円の赤字国債の発行に象徴されるように、国家財政が危機に瀕しているというのに、有権者は民主党の子供手当や農家への個別保障に飛びつき、民主党政権を実現させた。では自民党はばら撒きをしなかったのかといえば、撒く先が民主党と違うだけで、有権者に迎合、集票してきたことは周知の事実だ。その累積赤字(請求書)が900兆円なのである。

 

今、「税と社会保障の一体改革」が問題となっているが、税収が41兆円(見込み)だというのに、年金、医療、介護だけで16・6兆円必要である。このままだと社会保障費は毎年1兆円ずつ増え続けるという。国家財政が破綻(はたん)するのは誰の目にも明らかだ。それなのにどの政党も票が逃げるのを恐れて社会保障分野にメスを入れようとしない。これこそが大衆迎合、無責任の最たるものである。

 

医療費の多くを使っているのが高齢者である。食べたいものをふんだんに食べ、体を動かさないから、糖尿病、高血圧、ガン、心臓病などの生活習慣病に罹り、医療機関に通う。医療機関は、経営という側面から売り上げを伸ばすために薬を際限なく処方する。保険財政が赤字となるのは当然の成り行きである。

 

医療費を減らすのは難しいことではない。適度な運動と高蛋白、高脂肪の食事を控えるだけで、多くの生活習慣病を防ぐことができる。その結果、医療費を大幅に削減することなる。抗がん剤の使用についても、規制を加えるべきである。医療分野の事業仕分けをすれば、医療費は大幅に削減できる。

 

なんでも国や地方自治体が保障するのが当然と思うようになった有権者は、その一方で、自分の生活は自分で守るという〝自立の精神〟を失って怠惰な生活に浸っている。その典型例が親の死を隠し、年金をもらい続ける子供の存在という、おぞましい事態にまでに立ち至っている。

 

封建時代の「独裁政治」を否定して出来たのが、選挙で多数の議席を獲得、多数決で政治を行うのが現代の自由民主主義制度である。しかし、政治家や政党が多くの議席を獲得するため、票欲しさに大衆に迎合したから上記のような癒着が生まれ、その結果、国民の精神と肉体は蝕まれ無気力化し、政治と国家財政は破綻に直面しているのだ。

 

民主党の元代表小沢一郎氏は、大衆の最も低い意識を狙って、ばら撒きをやって票を買い漁り、政権を奪取した大衆迎合、悪の権化だ。そして民主党政権は、放射能汚染も止めることが出来ない無能で無残な姿を露呈している。

 

選挙制度に矛盾を抱えた自由民主主義制度の中での政治家のリーダーシップとは、小沢一郎氏とは正反対に、国のあるべき姿を示し、そこに国民の意識を結集していくことである。安倍晋三、福田康夫、麻生太郎、鳩山由紀夫、菅直人と総理大臣が続いたが、彼らからは残念ながらビジョンもリーダーシップらしきものも見ることが出来なかった。

 

連立政権が出来ても、ビジョンやリーダーシップはなおのこと難しいであろう。しかし、当面、放射能汚染は万難を排して止めなければならない。自分の国や命を守るためには、有権者が賢くなる以外ない。国民は今こそ、それを自覚するときであろう。

更新日:2022年6月24日