菅首相「自衛隊で拉致救出」のドタバタ劇

佐藤勝巳

(2010.12.16)

 

 驚いたことに、菅直人総理大臣が北に「異変が起きたら」、自衛隊を投入して拉致被害者を救出すると考えている旨を被害者家族会などに発言(12月10日)し、波紋を呼んでいるというのだ「救う会ニュース」12月11日)。

 

 以前から、元衆議院議員西村眞悟氏や荒木和博特定失踪者調査会代表は、軍事力を行使してでも拉致被害者を救出せよ、と主張していた。しかし今度は、総理大臣が「北に異変が起きたら」と条件を付してはいるが、似たことを口にしたのだから、誰だって驚く。

 

 安倍晋三内閣のときから、いや、もっと前から当時の救う会は、北での拉致被害者の所在を突き止めるため、いろいろのルートを通じて情報収集を行なってきた。民主党政権になってから、拉致被害者の一部だけでも居所を突き止めたのだろうか。現政権の体質からは想像もできないのだが……。

 

 もし拉致被害者の所在地を確認することなく、菅首相が自衛隊で拉致被害者救出を云々したのであれば、鳩山由紀夫前首相が普天間基地を沖縄県外に移設する当てもないのに公約したことに、勝るとも劣らぬ無責任発言である。それに気がついたのか、仙谷由人官房長官は、13日の記者会見で冒頭の首相発言を「一切承知していません。全く検討されていません」とにべもなく否定した。

 

 本来なら、首相発言を否定した官房長官は罷免に値するのだが、菅首相は、官房長官を罷免するのではなく「韓国に居住する日本人の救出という意味で言った」と釈明した。北から自衛隊を使って救出するのに最も反対なのは民主党ではないのか。かくして北朝鮮に自衛隊を入れる話は、アッという間に民主党政権から消え去ってしまった。

 

 尖閣諸島であのような醜態を演じた首相が、衆議院で3分の2以上の議席欲しさに、憲法9条と心中すると公言している時代錯誤の社民党と再度手を握ることを模索し、家族会などに会うと、上記のような勇ましいことを言う。3日後には、仙石拉致担当兼官房長官は首相発言を全否定する。他方、自衛隊が韓国入りすると、いきなり聞かされた韓国通商外交部からは、不快感も露わに「こんな話し合いは時期尚早」と一蹴してきた。菅首相のお粗末さは、鳩山内閣の末期を彷彿とさせるものがある。

 

 この菅発言を信じた関係者は「家族会・救う会が北朝鮮急変事態時における救出作戦を準備せよと、繰り返し求めてきたことに対して、政府も真剣に取り組み始めた証拠といえる」(前掲「救う会ニュース」) と家族会・救う会が菅内閣を動かしたと自賛した。その翌々日に菅内閣に裏切られた。拉致が政治の玩具として扱われている感がある。なぜなのか。戦わずして権力に迎合する運動体にも半分の責任がある。拉致解決の道は遠い。

更新日:2022年6月24日