情報の陰蔽はビデオ流出より何百倍も悪質だ

佐藤勝巳

(2010.11. 8)

 

 尖閣諸島沖の中国漁船が日本の巡視船に衝突してきたビデオ映像が11月4日夜10時ごろ、インターネットに流れた。5日は朝早くからNHKテレビを初め各局が、このビデオ映像を繰り返し放映し、新聞もビデオからの写真を掲載して大騒ぎとなった。また、マスメディアもインターネットにスクープされ、面目丸つぶれとなった歴史的事件となろう。

 

 菅直人政権は、あのビデオを誰がネットに流したのかと犯人探しを始めている。だがその前に、このビデオ映像は、わが国が中国から馬鹿にされていると痛烈に感じさせられる映像であったことを、菅政権はどう理解しているのか問いたい。

 非武装の中国漁船が20ミリ機関砲を備えた日本の巡視船に体当たりしている。これは、丸腰の人間が拳銃を持つ警察官に体当たりをしてきたのと同じだ。中国漁船の行動を映像で見るかぎり、日本の巡視船は「発砲しない」と日本をなめきっている様子が見てとれる。

 国辱的な映像にもかかわらず「中国を刺激したくない」と公開をしぶる菅内閣に、かつて韓国の金大中・盧武鉉両氏が金正日にとった屈辱的で間抜けの対応と同質のものを感じる。

 

 この漁船体当たり事件以来国民は、仙谷由人官房長官らから、うんざりするほど「国内法に基づいて粛々と対応する」「冷静に対処する」という言葉を聞かされてきた。この言葉の裏にはインターネットに流出した屈辱的な真実が隠蔽(いんぺい)されていたのだ。呆れてものが言えない。

 菅内閣には、このビデオを公開したら国民が中国に対して何をするか分からないという国民不信が奥底にあったのではないのか。もしそうだとしたら、菅内閣は国民を愚弄し、「中国社会帝国主義」をかばったことになる。

 

 民主党の中国認識は、昨年暮れ、当時の民主党小沢一郎幹事長は、民主党国会議員など600余名を引き連れて北京に胡錦濤詣でをしたり、鳩山由紀夫前首相の上海万博でのちゃらちゃらした挨拶などに見られるように、中国の帝国主義的本質を取り違えているからだ。

 

 わが国の海上保安庁の巡視船が、国土を守るため必死に侵略者と戦い、犯人を逮捕しても、政権側はいとも簡単に釈放してしまった。こういうのをわが国では売国政党と言うのではなかったのか。ビデオが流出するのは形式的には法律に反するのかもしれないが、国民に真実を隠している菅政権の罪とどちらが重いかといえば、国家の利益を売る方が比較にならないほど重いに決まっている。

 

 あのビデオを見て呆れたのは、中国漁船が日本の巡視船に体当たりする直前直後、巡視船は日本語、中国語、英語で航行停止を命じている。それを無視し、巡視船の船尾に衝突してきた。巡視船(みずきと思われる)は衝突された直後、漁船に向かって放水と黒い煙幕のようなものを流していたが、日本領海内で巡視船に体当たりしてきた漁船の行動は、挑発行為そのものである。あそこでなぜ20ミリ機関砲で警告射撃をしなかったのか。それでも停船しないなら、銃撃・撃沈するのが常識である。思わず「馬鹿と違うか」という言葉が口をついて出た。あの巡視船は自衛行為すら放棄したとんでもない誤りを犯している。あれこそが処罰の対象にすべきことだ。

 

 中国領内で日本の漁船が中国の巡視船に体当たりしたとしたら、中国の監視船は即座に日本漁船を撃沈するであろう。ほぼ断言してよい。かつて北朝鮮は日本の漁船を銃撃している。 

 1975年9月2日午前10時3分、黄海の中国・旅大市東180kmの公海上で、佐賀県呼子町のフグ延縄漁船の松生丸(49.8トン、9人乗組)に北朝鮮の警備艇2隻が接近して手旗信号を送ってきたが意味が分からずにいると、いきなり北朝鮮警備艇は松生丸の船首を銃撃、さらに船尾も銃撃して甲板員の柳原増太郎(49)、前川三千男(37)を射殺した。松生丸は北朝鮮警備艇4隻に拿捕された。9月3日未明、朝鮮中央通信が松生丸を領海に侵入したなどとして拿捕したことを明らかにし、同赤十字は9月5日午前6時に、松生丸をスパイ船として銃撃したと報道した。

 

 このとき日本の「進歩的文化人」たちは、日本が北に謝罪すべきだなどと主張、「被害者が加害者に謝罪する」という珍事となり、韓国に嘲笑されるという事件が起きた。当時の自民党政府は、金日成が「遺憾の意を表明した」と言って事件をうやむやに終わらせた恥ずべき歴史である。その後、政界もメディアも、中国や北朝鮮の本質を何も知ろうとしてこなかったから、自国の領土が侵略されようとしているのに、それすら自覚できないで事実を隠蔽しょうとしている。よくもここまで駄目になったものと呆れてしまう。

 

 中国・北朝鮮で、漁船の船長が上部の許可なく日本の巡視船に体当たりしたら、冗談ではなく船長の首はいくつあっても足りない。ところが中国漁船の船長は、釈放されて帰国したら英雄として迎えられた。これはどう見ても、衝突は「作戦行為」としか考えられない。衝突する前の漁船乗組員の様子が、突発事故なら慌てるはずなのに全く落ち着いていたからだ。あの漁船の乗組員は本当に漁業労働者だったのか。取調べをした海上保安庁は情報を公開すべきである。

 

 金正日政権が今年の3月、韓国の哨戒艦を撃沈した。そして尖閣事件は9月7日に起きた。11月1日、ロシアのメドベージェフ大統領が最高指導者として初めて北方領土国後島を訪問した。これは偶然だろうか。民主党鳩山由紀夫政権は普天間基地移設問題で、アメリカと摩擦を起こした。この摩擦に端を発していることは間違いない。

 人類の歴史は強いものが弱いものを支配してきた。よく「固有の領土」なる言葉が使われているが、それは誤りだ。例外もあるが、国境は戦争のたびに動いている。いま日本周辺で起きていることは、日本が弱いから中国などの侵略を受け出したのだ。他国に支配を受けたくなかったら、「第二の黒船来襲」と受け止め戦うのか、戦わずして他国の支配を受け入れるのか、有権者の厳しい判断が問われている。役に立たない政権は変えればよい。 それ以外にわが国、わが身を守る方法はない。弱い国は滅びるという当たり前の歴史認識を持つことが望まれているのではないか。

更新日:2022年6月24日