朝鮮戦争60年にあたって

佐藤勝巳

(2010. 6.28)

 

 この6月25日は朝鮮戦争60年目の日だ。

 朝鮮戦争については専門家たちが色々論じているので、私のような門外漢が触れることではないが、この戦争は、第二次世界大戦後最初の「熱い戦争」であった。休戦協定後の東西「冷戦」では、南北は最前線で対峙した。冷戦が終わってもなお、金正日政権は何度かテロを繰り返し、3月下旬には、韓国哨戒艦を魚雷で撃沈するという「熱い戦争」を始めた。

 

 韓国の元外交官洪熒氏は、「日韓併合」以来今日まで、北は一貫して日本・ソ連・中国の植民地であったと捉え、韓半島並びに東アジアの平和と安定を確保するには、北をロシア・中国の植民地から解放することと、スターリン主義の「変種」金正日政権を解体することが絶対的必要条件だ、と主張している。

 

 このような捉え方は韓国でも絶対少数と思われるが、私は正しいと理解している。5月に金正日が中国を訪問したとき、中国の胡錦濤は金正日に内政外交で「突っ込んだ意見交換」、(5項目の)提案を行なった。これは中国の北に対する植民地支配強化の要求であることは、誰の目にも明らかである。

 

 北は今年9月上旬に朝鮮労働党代表者会議を開催する旨発表した。一部では後継者選出のための代表者会議との見方もあるが、あの国は独裁者の一言で何でも決まるところだ。後継者を決めるのに党の代表者会議がどうして必要なのか。現実と距離のある考えだ。

 

 朝鮮労働党代表者会議開催を言い出したのは、中国共産党の「突っ込んだ意見」の可能性が高い。朝鮮労働党は1980年から30年間党大会を開催していない。1993年12月から17年間党中央委員会を開いていない。総書記は中央委員会で選出すると党規約に明記しているが、中央委員会が開催されていないのに、いつの間にか金正日に「総書記」なる肩書きがつけられた。

 

 昨年11月から、国防委員会が最高権力機関になったが、党大会も中央委員会も開催されていないから、党機関に承認されたわけでもない。しかしいつの間にか国防委員会は最高権力機関になった。あの国では金正日イコール党なのだ。以上の事実からも後継者問題で代表者会議開催云々は解せない。

 

 中国が対外的に個人独裁を擁護しにくいと考えたのか。それとも北を中国式改革開放に誘導する手段なのか。または中国が望む後継者実現の意図が隠されているのか、まもなく明らかになる。金正日の家臣らにとって後継者問題は重大であるが、金正日は自分の死後を家臣らと同じく重視しているのだろうか。現時点で金正日が後継者を決めていないと見るのが妥当であろう。

 

 話を戻すと、朝鮮戦争で金日成政権は中国の毛沢東に助けられた。今度は米、韓、日を敵に回し、崩壊直前の正日政権が中国共産党に助けられるという、60年前と同じ構図が浮かび上がりつつある。

 

 朝鮮戦争当時は、金日成政権はソ連・中国、東欧など「社会主義」という共通イデオロギーで結ばれていた。現在、金正日と結びつくイデオロギーは世界の何処にもない。日本共産党、社民党、岩波書店の雑誌「世界」、朝日新聞といえども、公然と金正日政権支持を口に出せないでいる。公然と支持しているのは韓国内の左翼(「従北勢力」)ぐらいのものだ。金正日を取り巻く情勢は、朝鮮戦争当時と量・質ともに違っている。

 

 焦点は中朝関係と南北関係。韓国と日本、アメリカが現状をどう捉え、連帯するのか。この関係は朝鮮戦争時代と変わっていない。

 

 朝鮮半島情勢によって沖縄の米軍の存在が、東アジアの平和と安定のため急速に価値がたかまって来ている。民主党鳩山政権は普天間移設問題で愚かな言動を繰り返し、混乱を引き起こした。菅直人政権は責任上全力で事後処理に当たるべきだ。朝鮮半島に何が起きてもおかしくない、緊張した情勢を軽視してはならない。

更新日:2022年6月24日