総聯の「犯罪」③

佐藤勝巳

(2010. 4.15)

 

Ⅳ 日本にとっての総聯とは何か

 わが国の税法では国籍の如何を問わず、日本国内で発生した所得は課税の対象となるはずなのに、文東建氏を筆頭にした総聯系在日朝鮮人は、どうして北朝鮮に多額のカンパが出来たのであろうか、と日本人なら誰もが疑問に思う。

 陳述人もそのことをずっと疑問に思っていたが、総聯傘下の商工人たちが1976年から所得税らしい所得税をわが国に払っていないということを、長年付き合ってきた総聯関係者から知ったときには、本当に驚いた。

 1967年12月13日、関東国税局は東京の朝鮮人商工会所属の貸金業・具滋龍氏(総聯系在日朝鮮人の間では「守銭奴」と呼ばれ、知らない人はいなかった。晩年廃棄物の利権をめぐり暴力団員に射殺された)を脱税容疑で、氏の取引先である同和信用組合(後の朝鮮信用組合)に強制捜査を執行したところ、総聯はこれを「不当弾圧」だと称して、全国の在日朝鮮人多住地域の税務署に抗議行動をかけたのである。

 その抗議行動は数年に亘り、一部の税務署では日常業務に支障をきたすところもあったと言われているほど執拗を極めたが、その後総聯は、朝鮮商工会と国税当局との間で税金に関する「合意」があると「商工新聞」の主張で触れたのを陳述人が発見した。しかしその時は「合意」の中身は分からなかった。

 それからあらゆる人脈を通じ、国税当局にアプローチした。そして分かったことは、当時社会党高沢寅男副委員長の議員会館の部屋で、国税当局(出席者の名前も判明した)と朝鮮商工会幹部が会っている事実まで突き止めた。しかし、国税当局は「合意」なかったと否定した。したがって「合意」を裏付けるものはその時点でなかった。だが、当時陳述人が主宰していた雑誌『現代コリア』の西岡力編集長が、1991年2月に総聯が発行した『朝鮮総聯』(朝鮮語)なる小冊子の中で「総聯は日本当局の不当な税務攻勢を是正させ、税金問題を公正に解決するためにねばり強く闘争した。この努力の結果として、1967年に在日朝鮮人商工連合会と日本国税庁の間で税金問題解決に関する5項目の<合意>が成立した。その基本内容は、在日朝鮮商工人の税金問題はすべて朝鮮商工会と日本税務当局との合意によって公正に処理するというものである」と記している事実を発見した。この時点でようやく総聯の主張の裏付けが証明されたのであった。

 これはとんでもない事件である。国税庁が北朝鮮と総聯の暴力に屈し、法の前の平等を踏みにじった「国辱事件」として記録されるものであったのだ。陳述人らは当時一部総合雑誌などに書いたが、政府は言うまでもなく、永田町も主要メデァも黙殺した。

 思い余って陳述人は「合意」問題を兵庫県選出の鴻池祥肇参議院議員に持込んだ。鴻池議員は1999年2月22日参議院予算委員会の総括質問で、総聯の言う「5項目合意」が存在するのかどうかを糾した。大竹賢一郎国税庁次長(当時)は、「いわゆる合意事項というものはありません。……今般合意事項なるものは存在しないということについて、改めて国税職員に周知徹底をはかる旨の指示をしたところです」と否定した(後で分かるのだがこの「指示」は国税庁次長答弁の直前に出している)。

 だが国税庁は鴻池議員の質問通告を受けたとき、「〝合意〟はないのだから質問をしないで欲しい」と2回も電話で要請しただけではなく、質問当日も、担当課長が議員会館の鴻池議員の部屋の入り口に立ちはだかって同じ要請を繰り返し、鴻池議員に「議員の質問権を妨害するのか」と一喝されたという (この話は陳述人が鴻池議員から直接聞いたものである。これに関しては、拙著『北朝鮮の「今」がわかる本』(三笠書房、1999年8月刊の144~146ページにも紹介している)。

 

 こうした国税庁の態度に疑問を持った陳述人は、2000年3月、陳述人の居住する埼玉県朝霞市朝霞税務署に対し、「総聯系商工人の税金の申告は、朝鮮商工会が一括申告をし、税額は商工会と税務署の交渉で決まっているのではないか」と担当課長に糺してみた。

 課長は「関東国税局に聞いてから……」と答えるので、「朝霞税務署が在日朝鮮人の税金の申告をどう扱っているのかという事実関係を何故関東国税局に聞かないと答えられないのか。教えて欲しい」と、陳述人の名刺と著書(前掲書)を差し出し、鴻池議員の質問箇所を示して「国税庁からどんな指示がなされたのか。指示があったかどうか教えて欲しい」と重ねて訊ねてみたが、課長は「上司と相談し、後で答えます」と繰り返すだけだった。

 この陳述人の経験から言っても、合意事項は存在しないことを全国に周知徹底させたと公言した国税庁であったが、何の説得力もない。法治国家において個人の税額が税務署と朝鮮商工会との交渉で決まる。なぜこんなことを国税当局は認めたのか。何故に総聯に特権を与えたのか。法の前の平等を政府が踏みにじっている許しがたい行為である。

 文東建氏が船を寄贈できたのも日本国家に納めるべき税金を納めないからだ、とも言えるのだ。(続く)

更新日:2022年6月24日