独裁者と茶坊主たちの民主党

佐藤勝巳

(2010. 3.29)

 

 北朝鮮では昨年末実行した「通貨改革」が国民の生活に大混乱を巻き起こしていることで、それを指導した責任者が「処刑」されたという情報が流れている。処刑の理由が将軍様の〝権威を傷つけた〟という独裁国家特有の混乱収拾にうんざりしていたら、なんと日本でも似たような事態が出来した。

 民主党生方幸夫副幹事長が3月17日付産経新聞紙上で小沢一郎幹事長を批判したことがけしからんので生方氏の副幹事長を解任することにした、と高島良充筆頭副幹事長が内外に表明し、23日の常任幹事会で解任手続きを取る予定だという。ところが突然、解任しないことになった。その理由を小沢幹事長は「参院選を控え党の団結と協力が大事な時だ。ぜひ生方君も、みんなと仲良く副幹事長の職務に全力をあげてほしいと申し上げた」(産経新聞3月24日付)と説明したのだ。

 

 「今の民主党は権限と財源をどなたか一人が握っている」と小沢氏を批判した生方氏に対して、小沢氏は「参議院選挙前だから、みんなと仲良くやって欲しい」と言ったとたん、それまで「党内で発言せず、いきなりメディアで発言するのは怪しからん」といきまいていた高島筆頭副幹事長らは「小沢氏の変心を知ると手のひらを返したように迎合して主張を変えた」(産経新聞3月24日)という。こういうのを茶坊主もしくは幇間(ほうかん)政治と呼ぶのであるが、それにしても、それを民主党がやるとは、あまりにもひど過ぎはしないか。

 茶坊主どもに生方発言がなぜ問題視されたかというと、その背景には次のようなことがあった。民主党は政権掌握直後の09年9月18日<議員必見>として「政府・与党一元化における政策の決定について」という文書を各議員宛に出している。中身を要約すると①民主党の「次の内閣」「政策調査会」を廃止、政策は政府で決め、国会に政府提案として提出可決する。②選挙、国会など議員の政治活動に係わる政治問題については、党で論議し党の役員会で決定議員立法とする、というものだ。

 この決定の問題点は、大臣、副大臣、政務官、民主党の役員は政策決定に関与できるが、そうでない議員は、政策について発言する場を奪われたうえ、議員立法なども許されない、という国会議員としての基本的活動を規制した点にある。「事業仕分け」という政治活動からも幹事長命令で新人議員が外されたことは記憶に新しい。当選回数の少ない議員は、党命令によって本会議場では、拍手や野次を飛ばし挙手をするロボット、と化されたのである。

 この文書を読んだとき、「下級は上級に、少数は多数に従う」という共産党の民主集中制に近い臭いを感じた。共産党もどきで議員活動を拘束するこの民主党の決定は、自由民主主義よりも、中国共産党や金正日独裁に近いものであり、幹事長に権力が集中する「独裁」を容認したということになろう。生方議員の「権限と財源」を一人が握っているとの批判は核心を突いたものであったのだ。

 加えて、全国からの政府への陳情を党の幹事長室が握るという決定を、民主党の誰と誰が、どの機関で決定したのかを、民主党の議員は言うまでもなく、有権者も民主党に厳しく問う権利がある。なぜなら、こんなことを見過ごしたら、北朝鮮と同じ個人独裁になっていく。現に今回の騒動は、茶坊主がはびこり出していることを証明しているではないか。

 

 それにしても小沢氏は、生方氏の解任をなぜ思いとどまったのか。世論調査の風当たりが強いのと、閣僚の中からも、生方氏問題で小沢幹事長批判が出だしてきたことで小沢氏は、生方氏を斬るよりも抱き込んで孤立させる、という戦術転換をはかったのであろう。“みんなと仲良く”と言った小沢氏が、「話がある」と言う生方氏に対して、「いつでも話せる。今日は時間がない」と言って生方議員の発言を封じていることが、抱き込みを裏付けている。

 

 生方発言とは別に、北教祖出身の小林千代美議員の政治資金規正法違反問題についても民主党の態度は曖昧である。誰が考えても、彼女が議員を辞任すれば鳩山・小沢両氏も議員辞任となるから、小林議員を辞任させないでいるのだ。政治資金規正法違反に問われたら、自分は「知らなかった」と言えばなにやってもよい、ということを小沢・鳩山氏らは有権者に身をもって示した。モラルハザードの極致である。有権者をよくもここまで愚弄できるものだと呆れる。

 

 今までは普天間、今度は郵政改革も加わって、閣内不協和音は一層高まっているが、あげて鳩山首相の政治力の低さに起因している。背後に民主党と公明党の接近があるのかもしれないが、いずれにしても見苦しい話だ。

 

 鳩山氏は普天間問題で参院選まで首相でおれるのかどうか不明だが、民主党に投票した有権者は、反省の証として、7月の参院選では民主党候補に投票しなければよい。そうすれば小沢・鳩山両氏は確実に辞任せざるを得なくなるだろう。しかしそうなっても政界混迷、不況脱出の解決にはならないところにわが国政治の深刻さがある。

更新日:2022年6月24日