地方参政権・民団に問う

佐藤勝巳

(2010. 2.17)

 

ちょっと待て

 永住外国人で、もっとも積極的に日本の地方参政権(首長、地方議会議員への投票権)を求めているのは、韓国を支持している「在日本大韓民国民団」(以下民団と呼ぶ)である。

 民団の地方参政権を訴えるホームページを見ると冒頭の書き出しに「①驚かれるかもしれませんが、戦後50年以上も経つのに、私たち在日韓国人には地方自治体の参政権がありません。……地域住民として地方公共団体の参政権を望んでいます」と記している。これを読んで私は思わず、「ちょっと待て、マジかよ」と声を上げだ。

 

 1970年、ある在日韓国人青年が日本名で日立製作所の就職試験を受けて合格した。入社に際し、戸籍謄本を要求された。外国人は戸籍がないから、外国人登録の「登録済み証明書」を持参した。日立はこれが経歴詐称に当たるとして、採用を取り消した。青年は日立を相手に「不当解雇」として横浜地裁で争った。当時、私は在日韓国人青年の主張を支持する日本人側の運動責任者であり、この裁判は1974年、全面勝利で終わった 。

 

「ネオ同化主義」

 この運動に対する民団・総聯の態度は、在日韓国人が「日本企業に就職してどうする気か。民族の主体性を失った<同化した屑だ>」こんな奴を支援している日本人並びに在日韓国人は「ネオ同化主義者だ」というもので、2つの民族団体から激しい攻撃を受けた。

 現在「同化主義」なる言葉は死語になっているが、1960年代後半から70年代にかけて、在日韓国・朝鮮人の世界では、「自分達はいずれ本国に帰る。日本は<仮の宿>。日本社会に<同化>するのは民族性の喪失、祖国への<裏切り行為>」という意味で使われていた。これは約40年前の話である。

 

地方参政権要求は「同化主義」では

 その同じ民団が、日本国家を構成している地方自治体への参政権を要求している。かつて彼らが前述の青年を「同化だ、裏切り者だ」と批判した何倍も、「同化主義集団」「民族の裏切り者集団」ということになる。  

 あの日立裁判に対する民団の批判は一体なんだったのか。どういう理由で民団が、地方参政権という日本社会への「同化」を肯定することになったのか。「ネオ同化主義者」と批判された私は、民団執行部に回答を求める権利がある。お答えいただきたい。

 

特権要求の根拠は何か

 次に、在日韓国人は韓国での兵役が免除されているのに、昨年2月から、本国韓国の大統領選挙並びに国会議員選挙の比例代表に投票する権利を手にした。詳しいことは分らないが民団が韓国国会に働きかけた結果であろう。

 

 他方、同じ民団が、日本政府並びに日本社会に地方参政権付与を求めている。もし小沢一郎民主党が、在日韓国人に地方参政権を与えたら、在日韓国人は、韓国人も日本人にもない「特権」を手にすることになる。民団はいかなる法的、政治的、道義的根拠があって「特権」を要求出来るのか、是非ともお聞かせ願いたい。

 

地方参政権要求の合憲の根拠

 民団は色々な理由を挙げて、日本の地方参政権を要求しているが、「永住外国人に地方参政権を付与することは日本の憲法の精神にかなうもの」だと主張している。憲法のどこにそんなことが書いてあるのか、教えていただきたい。憲法第93条2項の「住民」は「日本国民たる住民」を指している。韓国籍保持者が日本国民であるはずがない。民団幹部はこの事実を承知の上で、地方参政権を要求している。これは明白な憲法否定の考えである。出入国管理及び難民認定法24条は「法務大臣が日本国の利益又は公安を害する行為を行ったと認定する(ヨ)」場合、いつでも強制的に国外に退去させることができると規定している。民団は、団体として日本国の憲法を否定する活動を行っている。これは、重大な「国益の侵害」「公安を害する」案件であることを、民団幹部は自覚しているのだろうか。

 

在日韓国人の結婚相手、95%以上が日本人

 現在、在日韓国人100組が結婚すると、韓国人同士の結婚はそのうち5組あるかなしだ。後の95 組の結婚相手は男女のどちらかが日本人である。生まれてくる子どもの国籍の多くは日本国籍を取得していると推定される。

 在日韓国人永住者の人口が毎年約1万人ずつ減少しているのは、高齢者の死亡もあるが、日本国籍取得者が増加しているからだ。この事実は、戦前から日本に居住していた在日韓国人の子孫が、日本社会に融合していく過程を明示している。これと同じことが3世紀以来、朝鮮半島と日本の間で繰り返されてきていた。世界中で人が移動するところでは普遍的に起きている現象で、「民族の裏切り」云々などは1世世代の認識錯誤であったのだ。

 

無意味な外国の例

 人の移動、外国人管理は時代と地域、国によって異なる。現状は国境と国籍によって行なわれている。民団は諸外国の例など出して、地方参政権を求めているが、今はどうなっているか知らないが、オランダ、ベルギー、ノルウェー、デンマーク、スウェーデンの5カ国で外国人に参政権を認めていたのを20数年前に調べたことがある。この5カ国は言語もそれほど違わず、労働力の交流などの必要性から、旅券を必要としていないだけではなく、社会保障も大きな差はなかった。日韓にそんな条件は皆無である。外国人にどんな権利を付与するかは、挙げて当該国の「国益」に基づく主権行為である。他国の例など出して論ずることは、外国人管理のイロハも知らないナンセンスな主張である。

 在日韓国人の誰が、地方参政権を欲しいと言っているのか。現実は、前述のように日本国籍所有者が増加し、韓国国籍所有者が減少している。地方参政権は言うまでもなく、国政参政権問題も静かに解決に向っているのだ。

 

民団幹部の錯誤

 それなのに民団幹部はどうして平地に波風を立てているのか。一昔前までは、民族、祖国、統一、「偉大なる首領」、社会主義、反共などのスローガンで在日1世や一部の2世の心を捉えることが出来た。上述のように今や日本人との結婚が増加、従来のスローガンで在日同胞を結集することが難しくなった。何か運動を提起しなければジリ貧に陥り、組織維持が困難となって来た。民団の地方参政権運動はこのような背景から生まれてきたものである。だが、仮に地方参政権を手にしても民団への結集を期待することはできない。この運動は歴史の流れに逆行する一部民団幹部の功名心によって、在日韓国人と日本社会に溝を作る間違った運動であることを知って欲しい。 

 

ネオ日韓癒着

 民主党小沢一郎幹事長が昨年12月、中国の帰りに韓国を訪問した。民団は、その機会を捉えて李明博大統領に、在日韓国人に地方参政権付与をするよう小沢氏に要請させた。小沢氏は渡りに舟と快く承知し、日本に帰って「韓国の要請によって」と政権公約にもない外国人地方参政権法案を通常国会に提出する旨発言した。 

 つまり民団執行部は、これが実現できれば、「俺がやった」と誇示できる。李明博大統領も自分の業績にできる。小沢幹事長は、民団に恩を売り、得票を伸ばすことが出来る。日韓新ポピュリズムの典型的癒着例と言える。

 

警戒すべきは中国だ

 日本人の一部に在日韓国人に地方参政権を与えたら、長崎県対馬に居住を移し、地方議会に影響を与えるのではないかと危惧する声がある。在日韓国人青年が本当に韓国を愛しているのなら、進んで兵役に服務するはずだ。そんな話は耳にしたことがない。韓国を愛していない人たちが、住所を対馬に移すだろうか。失礼だが、民団にそんな力はない。心配なのは在日中国人永住者に地方参政権を与えることだ。この集団は1世であるから、本国との地縁、血縁、共産党関係など繋がりは在日韓国人とは質が違う。沖縄県諸島への移住を警戒すべきはこの集団である。どうして戦後入国してきた在日中国人永住者に地方参政権を与えなければなにならなのか、やっぱり鳩山政権の中国認識は間違っている。

 

民団の言動を注視

 民団は、東アジアの諸悪の根源、金正日政権の手先総聯に、何度も乗っ取られそうになった。それと戦わず、地方参政権運動に力を注いでいる。民団に補助金を出している李明博政権、日本政府、アメリカ政府も北に核放棄を求め続けている。民団は総聯に、金正日政権に核放棄を求めよ、となぜ圧力を加えないのか。民団は金正日政権の核を容認しているのだろうか。

 民主党政権は、アジアの安全保障のカナメ、沖縄から米軍は「出で行け」と主張している。民団が独裁者小沢一郎民主党と連携していることを、心ある日本国民は最大の関心を持って注視している。

更新日:2022年6月24日