無念で堪らない

佐藤勝巳

(2010. 1. 8)

 

 今年もよろしくお願いします。

 

 新年早々、藤井財務大臣が健康を理由に突如辞任を表明。国内政治は波乱の幕開けとなるなかで、金正日氏が近々訪中するのではないかと、取りざたされているのは、思ったより慎重なオバマ政権の対北政策との関連があるのではないか。

 その一方で、金正日政権の日本接近が始まっている。鳩山由紀夫首相は「訪朝するのか」とマスコミに問われて、まだそんな話にはなっていない、と答えている。だが、金正日政権と何をどう交渉しようというのか。率直なところ、こんな内閣に交渉されたら困る、と私は考えている。 

 

 その理由は、100日余の鳩山政権の外交姿勢を見て、この政権は、日米安保条約がどんな経緯で結ばれ、どういう役割を果たしてきたのか、まるで分かっていないと思うからだ。情勢が変ったから沖縄から米軍は出て行け、というのであれば、何がどんなふうに変ったのか鳩山氏は説明する責任がある。「最後は私が決めます」と繰り返し口にしていたにも拘わらず、決めたことは決着の先送りであった。民主党は衆参あわせて422議席を持っているのに、たかが衆参合計12議席しかない社民党に引きずり回されて、国民の総意と著しくかけ離れた道を歩みつつある。

 

 要するに、鳩山内閣は外交・内政ともに〝決断の出来ない無能政権〟と言わざるを得ない。その上票になるなら何でもやる小沢一郎幹事長が実権を持つ政権に、拉致を含む対北朝鮮外交などやってもらったら、ろくなことにならない。金正日政権の暴力と詭弁という本質が分らなかったら、安倍晋三内閣以前の自民党政権と同じく、罠にはまるだけである。

 中井恰拉致担当大臣は会う人ごとに「拉致のことは俺が一番詳しい。小沢(一郎)には口出しさせない」と言っていると聞く。だがそう言う中井大臣は、韓国に亡命している元朝鮮労働党国際部長黄長燁氏を日本に呼ぼうとしているというが、解せない。今さら黄氏を呼んで何をどうしようというのか。拉致の細かいことなどいくら知っていてもどうしようもない。大事なことは、上述したように金正日政権の本質をきちんと把握し対処することなのだ。

 

 鳩山政権全体について言えることだが、もっと国民に対して謙虚でなければならない。小沢一郎幹事長をはじめとして傲慢すぎる。半世紀にわたって営々として作ってきたダムを関係自治体に一言の挨拶もなく、「公約だから中止します」と平気で言える権力的な態度や、1件1時間の事業仕分けで無駄が摘出できるという認識そのものに、金正日政権と同質の恐ろしさを感じる。そこには人間の痛みや辛さ、葛藤を理解しようとする謙虚さは微塵もない。あの仕分けをしていた若い女性の参議院議議員の権力的態度は何だ。

 鳩山氏は母親から12億円のカネの援助を受けていることを他人に指摘されるまで知らなかった、と言い切っている。その彼は「政治には弱い人々、少数の人々の視点が尊重されなければなりません。そのことだけは、私の友愛政治の原点として、ここに宣言させていただきます」(09年10月26日の施政方針演説)と述べていた。白々し過ぎはしないか。

 

 そして首相は、元旦に都内のハローワークを菅直人副総理と一緒に視察していた。12億円ものカネが援助されていることを知らなかったと言う金銭感覚の人間が、何十回ハローワークに足を運んでも、失業者の気持ちなど理解できるはずがない。テレビを意識した、そして頻繁に「現地指導」している金正日もどきのミーハー的行動は成人のやることではない。そんな暇があったら景気回復の勉強をすることの方がはるかに現実的だ。

 分らないのに分った振りをするのを「偽善」だということを即刻悟るべきである。

 

 鳩山政権の閣僚には、切ったら血が出るのではないかという迫力と温かみが感じられない。ボロボロと崩れるオカラが出てくるのではないか、という「冷たさ」を感じるのは私だけであろうか。これが戦後民主主義教育の実態ということなのか。思い上がって人間を馬鹿にしてはならない。

 

 それにしても悔しい。われわれは、戦後60数年こんなに〝無能で冷たい〟政治や社会を作るために戦ってきたのではない。無念で堪らない。

更新日:2022年6月24日