ガンは国を滅ぼす③

佐藤勝巳

(2009.12.22)

 

 胃ガンの手術(半分切除)を 2006年8月に行なった私が、もし2011年8月まで5年以上生き延びることが出来たなら、連載①で触れた済陽(わたよう)高穂先生の論文に出会って、免疫療法を始めたおかげである。従来通り自分の健康に無関心でいたら、今ごろ48%の死亡組に入っていたであろうと本気で考えている。

 

 命の恩人とも言える済陽先生が『ガン再発を防ぐ「完全食」』(文春新書、09年10月)という本を出版された。

 

現代医学と食事療法の併用

 本書は、現代医学と「済陽式食事療法」の併用で体質改善を図りガンを克服するために、都立大塚病院副院長時代から、現代医学の手術、抗がん剤、放射線治療の3大療法と併せた食事療法を行なってきた実践を基に著述している。ガンの発生原因が、主として「食生活」にあるという点では、前回紹介した真柄俊一先生と全くおなじ認識である。

 済陽先生のいう「晩期ガン」(末期ガン)156例証の61・5%(137ページ)が、治癒ないし縮小したと本書で述べている。これは現代医学から見放された患者、つまり死を待つばかりのガン患者の立場からすれば、「地獄に仏」に等しく、本書はガン患者とその家族から高い関心を呼ぶことであろう。

 

 私が本書で特に注目したのは、39%の人が食事療法をやっても効果のなかったのは「食事療法を始める前に、大量の抗がん剤を使ったり、強力な抗がん剤を徹底的に使ってしまうと、免疫細胞を作り出す大本である骨髄がダメージをうけてしまいます。そのため食事療法を行なっても、リンパ球やナチュラルキラー細胞が増えてこないのです」という箇所であった。

 つまり〝抗がん剤使用が食事療法の障害であった〟 (176ページと206~208ページ)というのだ。

 

専門家に意見の違い

 抗がん剤と放射線治療が免疫力を低下させることを、真柄俊一先生も具体的な数値を示している(『ガンを治す「仕組み」はあなたの体のなかにある』第1章)。済陽先生は抗がん剤や放射線使用と食事療法の併用を提唱している。慶応大学医学部放射線科講師だった近藤誠先生は『患者よ、ガンと闘うな』(文藝春秋、1996年3月)の中で抗がん剤はガン治療に「九割は無効」(52ページ)と記している。しかし、放射線治療は肯定されている。専門的なことは、素人の私が立ち入る分野ではないから、意見の違いの紹介だけに止めておく。

 

縄文時代の食生活

 済陽先生は「検査、診断、治療が終わると、ご本人もご家族もそれまでの緊張が一気に解けて、ほっとされると思います。 でも、その後が本当の勝負なのです。それも『自力』で行なう勝負です。ここで、半年から一年、徹底した食事療法を頑張れるかどうかで、長期生存率は変ってくるのです」(前掲書218ページ)と記している。

 人間の生活の中での食事は、習慣というより必要不可欠のものである。約1年間済陽式食事療法を実践してみて分かったのは、相当な精神力を必要とすることであった。

 食べたいものを、食べられるのに自分の意志で美味しいものを拒否する、というのが食事療法である。いままで食べてきたものを口にしなくなるのだから「食べたい」という飢餓感に苛まれる。「小生ただいま縄文時代の食生活を行なっています」と友人たちに冗談めかして言わなければならないほど自分との闘いが必要であった。

 しかし、冷静に考えると、人類の発展史の脈絡からすると、自分の意志で食べたいものを抑止する治療が必要な日本は異様だ。ガンの死亡率は3人に1人、右肩上がりだ。そのような危機的状況にあるのに、テレビの食べ物のコマーシャルは生活習慣病促進を国民に執拗に勧めている。この国は2重3重に変なのではないか。 

 

人生の終わり方の模索

 人には、人生を終わるのに色々な終わり方がある。ある友人はタバコがガンに悪いのを百も承知の上で、ガンで亡くなるまでハイライトを手から離さなかった。傘寿を迎えた私が自己との闘いを要する食事療法をしようと覚悟した理由は単純だ。病気に負けたくなかったこと、やりたいことや見届けたいことがまだある、ということだった。それと老いと闘ってみたかった。少しかっこよく言えば医療機関のお世話にならず、保険財政に負担を掛けてはならないという思いもある。

 そこで私は死に至るまでの生き方として、1日8000歩を目標に歩き、チベット体操や気功(1日15分)、屈伸運動(1日数十回)などを毎日実行している。

 

「罰が当たった」

 日本では飽食が原因でガンを筆頭に、心臓病など循環器系統、糖尿病、肥満などの生活習慣病患者が激増し、膨大な医療費はとどまるところを知らない。生活習慣病の激増は日本の豊かさと比例している。国連調査で日本は「豊かな国」で世界1位(朝日新聞2006年12月6日)と言われているが、日本の食糧自給率はカロリー計算で41%、約60%を輸入に依存している。それなのに1900万トン(08年) もの食糧を年間捨てている。世界には8億4千万人(1997年食糧サミット)もの飢えている人々がいるというのに。

 かく言う私も、こういう社会環境の中でがんに侵された1人である。明治生まれの親の世代は、よく「罰が当たる」という言葉を口にしていたが、現代の生活習慣病の急増は、われわれが欲望の赴くままの食生活の挙句の果ての報いでは、と思うのだ。  

 食糧の絶対量不足の危機に直面している今、せめて先進国で済陽式食事療法ほど徹底的でなくとも、肉食の消費量を減少させることができたら、生活習慣病克服と食糧危機の解決に貢献できるのではないか。そういう意味では本書は、食糧危機にも鋭い問題提起をしていると思う。

 

ガン治療現場やっぱり訝(おか)しい

 この連載の最後で触れる予定であるが、近藤誠先生は十数年前から、抗がん剤の9割はガンに効かないと根拠を挙げて断定している。しかし医学会や治療の現場から大きな反論の声は上がっていない。黙殺しているのだ。そして全国の医療機関は、患者に苦痛を与え、若干の延命を図るため、高額の抗がん剤を今も大量に投与し、挙げ句、保険財政を逼迫(ひっぱく)させている。

 自分が患者であるから、なおさらそう感じるのかも知れないが、現代医学のガン治療現場は、やはり「魑魅魍魎(ちみもうりょう)の世界」としか言いようがないのではないか、と思っている。(続く)

更新日:2022年6月24日