田原総一郎氏に録音テープの公開を望む

佐藤勝巳

(2009.11. 9)

 

 ジャーナリストの田原総一郎氏が「朝まで生テレビ」(4月25日放映)で、横田めぐみさん、有本恵子さんは「すでに死亡している」と発言したことに立腹した有本恵子さんの両親(有本明弘・嘉代子夫妻)は、田原総一郎氏に対して「死亡と断定した根拠を明らかにしてほしい」と神戸地裁に訴えたことは、本欄でも紹介した(09年8月28日「田原総一郎氏の認識を問う」参照)。その初公判が10月23日神戸地裁で開かれ、次回公判が12月4日に開かれることになった。

 

 「週刊新潮」11月5日号によると、田原氏は同紙の取材に対して、外務省幹部に取材したテープがあるとした上で、「発言はテープにも録ってありますし、テープを起こしたら、いくらでも公開できますよ」と述べている。

 

 これは非常に歓迎すべきことである。公判で是非ともテープを公開してほしい。関係者が聞けば発言者は誰か分かる。そうしたらその幹部に証人として出廷してもらい、死亡の根拠を証言してもらうことができる。

 

 田原氏は答弁書で「言論の自由」を主張しているが、裏づけのない自由などあり得ないことは、ジャーナリストなら承知しているはずだ。みずからの発言を是非とも裏付けてほしい。

 

 仮に田原氏の言っていることが正しいとすると、外務省は二人の死亡を知りながら、なぜ拉致家族には知らせず、ジャーナリストの田原氏にだけしゃべったのか。外務省幹部は法廷で説明する義務がある。

 

 また、田原氏は「北朝鮮は<生きていない>と言っているわけ」と発言している。金正日政権の誰が田原氏に死亡したと言ったのかはわからないが、氏は北朝鮮の党官僚の発言を信用できると思ったからこそ公言したのだろう。信用できる根拠を明らかにしなくてはならない。

 

 金正日政権は、2002年9月に小泉首相と金正日との会談で日本人拉致を認めるまで、北朝鮮が日本人を拉致したという主張は「韓国情報機関のデマとデッチあげだ」と言ってきたことは天下周知の事実だ。つまり、ずっとウソをついてきた北朝鮮の発言に、田原氏は何の疑問も抱いていない。なぜ信用しているのか。法廷で明らかにして欲しい。

 

 現在、この田原発言をめぐって、家族会・救う会は「放送倫理・番組向上機構」を通じ、有本夫妻は裁判を通じ究明する、という異なる方法がとられている。

 

 救う会全国協議会ニュース(09年8月6日付)によると、「8月6日、放送倫理・番組向上機構(BPO)より、家族会・救う会で申し立てを行なっていた田原発言について、審議入りする旨連絡があった。同機構は、裁判に提訴された案件は扱わないという規定があるが、家族会・救う会は、本件は、有本明弘ご夫妻が田原氏を裁判で訴えたのとは異なり、テレビ朝日を対象とするもの等、別な案件として取り扱って欲しいとの要請を改めて行なった。今回それが認められたことになる」と報じている。

 

 一方、有本夫妻は提訴した理由を、筆者の取材に対してこう述べている。

 

 「裁判に提訴する前、救う会・会長藤野義明弁護士に『裁判で争いたい』と打診したら、『難しいと思う』と消極的な反応を示した。また、救う会西岡力会長代行は、いつも『マスコミを敵にまわしたらいかん』と言っているので最初から相談しなかった。横田滋氏は裁判するような人ではないことは長年の付き合いで分かっている。下手に相談したら、迷惑をかけることになるので、しなかった。自分を理解してくれている『支える会』(井川朗氏、加納良寛氏)と共に裁判をやることを決意した」と語っている。 

 

 金正日政権は、拉致被害者〝死亡説〟を日本社会に定着させようとさまざまな工作を仕掛けてきていることは、本欄でも再三指摘してきた。その魔手は民主党中枢部や外務省、家族会、救う会、議連にも伸びている。例えば、かつて拉致被害者家族連絡会結成に献身した兵本達吉氏が、「横田めぐみさんは死亡している」と記したFAXを、横田氏宅に3回も送っている(兵本氏と横田氏の両方から確認している)。

 

 平沢勝栄衆議院議員も拉致被害者〝死亡説〟を吹聴した時期があった。田原氏は報道関係で〝死亡説〟を唱える代表的人物である。家族会蓮池透前事務局長、家族会横田滋前代表は、周知のように「制裁解除」を主張している。金正日の工作が運動の中に公然と手を突っ込んできていることは明白だ。10月4日の「救う会」全国協議会幹事会では、横田発言が話題にもならなかったと聞くが、救出運動に何が起きているのか。 

 正日政権は陰に陽に、かつ執拗にあらゆる手を使って拉致被害者〝死亡説〟などの攻撃を繰り返している。この情況のなかで、有本夫妻と「支える会」が果敢に提訴した本裁判は、敵の工作と正面から戦う、主戦場となりつつある。

 本裁判の本質を正しく理解する人たちが、全国数ヵ所にこの裁判を支援する組織を作りつつあるときく。ご夫妻は大変だと思いますが、娘さんとお国のために頑張って下さい。

更新日:2022年6月24日