危ない、鳩山政権の北外交

佐藤勝巳

(2009.10.16)

 

 鳩山内閣は14日、北朝鮮貨物検査特別措置法案を23日召集予定の特別国会での提出を見送ることを固めた、と与党側に伝えたという(読売新聞10月15日付)。

 連立を組んでいる民社党内に「慎重論」があることや、「北朝鮮が核問題をめぐる6か国協議再開に柔軟な姿勢を示したことを考慮した」というのだが、ちょっと待って欲しい。金正日政権はいつどこで6者協議に「柔軟な姿勢」を示したというのか。

 

 金正日委員長が中国の温家宝首相に「多国間協議」云々と言ったのは、あくまでも米朝2国間協議が行なわれることが前提である。仮に米朝2国間協議が行なわれても、その中身が気に入らなければ6者協議に参加しないとごね、どうしても6者協議に出席してほしいなら、食糧や石油をいくら出す、と必ず代償を求めてくるのが、金正日政権のこれまでの常套手段である。この彼らのやりかたを忘れてはならない。

 

 クリントン国務長官は、その手には乗らないと機会あるごとに口にしている。従って、米朝の2国間交渉などいつ始まるのか見通しも立っていない。仮に協議が始まってもいつ決着がつくか予測できない状況だ。それなのに鳩山政権は早々と、金正日政権が6者協議に「柔軟な姿勢を示したことを考慮し」、国連安保理決議の実行を見合わせると言いだした。

 

 自民党政権も、日朝交渉再開を急ぐあまり合計150万トンのコメをタダ取りされるという恥ずべき外交を行なった過去がある。最近本欄でも紹介したが、2000年に河野洋平外務大臣が「まずこちらが誠意を示し、相手の誠意を期待する」と言って、政府はその年60万トンのコメを金正日政権に援助することを決めた。北は、援助が決定するやいなや日朝交渉を打ち切ってきた。

 それでもこのときは、金大中・金正日による南北首脳会談が開かれた年だということもあって、まだ動きがあった。

 今回は上記のように、金正日が米朝交渉を望むと中国の首相に口にしただけで、国連安保理決議の実行を見送るという具体的行動に出たのだから唖然とする。金正日が一言ものを言うと、日本で国連の制裁決議の実行が止まる、なんということだ。

 盧武鉉政権が韓国に現われ、金正日政権を「刺激してはならない」と右往左往した卑屈な態度と同質のものを感じる。この外交姿勢は極めて危険で、要警戒である。

 

 最近、韓国外交通商省が、1994年のジュネーブ協定以来、米、日、韓の3国が「金正日政権を非核化」させるとして、総額22億1000万ドル、2007億円も金正日政権に騙し取られている、と発表した(読売新聞10月5日付)。日本外務省も騙された当事者の1人であり、金正日政権の「たかり外交」の手口を熟知しているはずだ。

 民主党政権は、政治主導ということで官僚の話に聞く耳を持たないのか。それとも官僚と共謀しているのか。明らかに、歴史の歯車が逆に回りだした、不吉な予兆である。

更新日:2022年6月24日