動き出した拉致対策本部

佐藤勝巳

(2009.10.14)

 

拉致対策本部発足

 10月13 日の閣議で、従来の拉致対策本部は全閣僚が部員として参加していたが解散し、新しく鳩山総理大臣を本部長、副本部長に中井拉致担当大臣(事務局兼務)、平野官房長官、岡田外務大臣の4名で構成することが決定した。

 「事務局には民間の北朝鮮専門家が加わる見通し」という報道もあり、中井大臣は閣議後の記者会見で「従来の対策本部は情報収集や北朝鮮への圧力のかけ方などで機能していなかった。実質的な突破口を切り開くための取り組みを強化したい」と述べている。

 これで、鳩山内閣の拉致救出の組織がスタートしたことになる。組織は人によって色々な色に見える。問題は救出の政策を決定する4人の政治家がどんなハーモニーを奏でるのか、にある。とにかく党派を超えて英知を結集して拉致被害者を救出することが肝心である。

 

中国の背信行為

 10月12日、日本海に向けて5発のミサイルをまた発射した金正日政権は、13 日からは南北赤十字会談を開いている。こうした行為は矛盾しているように見えるが、金正日政権にとって対南宥和政策は、韓国を騙してカネを収奪し、軍備を強化するための作戦であるから、矛盾していないのだ。

 北のこうした発想はこれまでも一貫している。4月には射程3200キロの中距離弾道ミサイルを太平洋に向けて実験し、翌5月には2回目の核実験を強行した。加えて5月~7月には17発の短距離ミサイルを発射している。

 だがその結果、国連安保理制裁決議で金正日政権は国際的に完全孤立し、オバマ政権の軍事的威嚇も加わって、8月に入って拉致していた米記者、同じく拉致された韓国人の釈放に追い込まれた。9月下旬には2年ぶりに、南北離散家族の(金剛山)面会に応じるという戦術的転換を迫られた。外貨が逼迫してきたからだ。

 ところが、10月に入って状況が変化した。10月4日、中国の温家宝首相が訪朝し、26億円の無償援助が決まった(韓国・東亜日報)というのだ。もしこの報道が事実なら、2006年の第1回核実験のとき米国は、国連で日本と制裁決議を共同で作成したが、直後米朝2国間交渉を開始し、制裁決議を破ったことは記憶に新しい。中国の援助はこれと同じ背信行為である。

 クリントン国務長官は10月13日中国の金正日政権への援助を承知のうえで、「対北朝鮮の制裁緩和はない」とモスクワで明言している。米中は今、北朝鮮をめぐってこのように覇権を争っている。

 民主党政権は「アジア共同体」「アジアの非核化」と言っているが、アジアで進行しているこうした現実を踏まえた上で議論しなければ、単なる机上の空論にしか過ぎなくなる。

 金正日政権は、この争いをうまく利用して延命をはかっている。米中の共通の課題は、北の核をそのままにして、日韓の核保有を抑止することに外交の重点が移ってきていると見るべきであろう(10月8日付コラム「日韓の核保有を押さえこむ6者協議」参照して欲しい)。

 金正日政権は、滅亡を免れるため必死の軍備強化に力を注いでいる。だがこれは、かつてソ連が軍拡競争で崩壊したのと同じ道を歩んでいると言っても過言ではないだろう。こうした国際情勢の中で今、日本と韓国は日韓軍事同盟も視野に入れて、どう連携し生き延びるのかを真剣に模索しなければならない緊迫した情勢に直面している、と私は見ている。

更新日:2022年6月24日