北「国連安保理は強盗さながら」

佐藤勝巳

(2009. 6.11)

 

 オバマ政権の金正日政権に対する政策が徐々に変わりつつある。甘い顔を見せたら大変なことになるということに、ようやく気がつきだしたようだ。

 6月6日、オバマ大統領はフランス大統領との記者会見の席で、「北朝鮮が地域を不安定化させる中で、われわれが同じ対応をとり続けると決めてかかるべきではない」と北に警告を発し、翌7日には、クリントン国務長官がテレビでブラフと思われるが「テロ支援国家再指定」の作業を開始したことを明らかにしている。

 6月に入ってから国務長官は、金正日政権に対して6者協議復帰要請を口にしていない。財務省幹部もアメリカ独自の金融制裁の検討を始めた、と報道されている。

 オバマ政権にはボズワーズ北朝鮮担当特別代表のように圧力を軽視する人物もいるが、大統領・国務長官の認識は政権スタート時とは違って、明らかに態度を修正している。

 〝オバマ政権は脅せば譲歩を引き出せる〟と読んでいた金正日政権にとって、これは完全に読み違いであった。ブッシュ政権と違って、恫喝にそれほど慌てている様子が見られないのだ。

 そこで金正日政権は、5月29日の外務省スポークスマン声明で、「今回の核実験は、国連安保理の強盗さながらの行為に対して朝鮮が取った自衛的措置の一環である」と国連安保理を「強盗さながら」と言って糾弾した。

 引き続きその理由を「事態がここまでに至った全責任は、朝鮮の平和的な衛星打ち上げを国連に持ち込んだ米国と、それに追随した勢力にある」と断定した上、「これらの国はわれわれの前では衛星打ち上げは主権国家の自主的権利だと言っておきながら、衛星打ち上げ後には国連でそれを糾弾した。(略)このような大規模核戦争演習が朝鮮半島で強行されているときには沈黙し、われわれがやむをえない自衛措置として行なった核実験に対して『地域の平和と安定に対する脅威』と騒ぎ立てている。自分らだけが持っていたものをわれわれが持つことになるのは、嫌だということである。結局、小国は大国に服従しろということである。われわれは領土も小さく、人口も少ないが、政治・軍事的には堂々たる強国だという自負と胆力を持っている」と勇ましい。

 彼らは弾道ミサイル発射は「平和的な衛星打ち上げ」だ、と言う。仮にそれを認めたとしよう。確かに言うように、日本を始め多くの国が「平和的な衛星」を打ち上げていることは事実であり、どこも国連安保理などに持ちこまれていない。

 確かに金正日政権だけが問題にされている。それはなぜかといえば、金正日政権の言動を世界中の誰も信用していないからである。

 「われわれの前では衛星打ち上げは主権国家の自主的権利だと言っておきながら、衛星打ち上げ後には国連でそれを糾弾した」と、暗に中国とロシアを批判している。一般論として衛星の打ち上げを否定できるはずがないのであるが、これまで金正日政権は核拡散防止条約から脱退し、また戻り、再度脱退し、国際原子力機関の査察要員を複数回国外退去させ、査察を拒否している。また、ジュネーブ合意にも違反し、裏で核開発をしてきた。6者協議にも違反して核実験を2回も強行した。こんなことをしているのは世界で金正日政権以外ない。

 彼らは目的実現のためには手段を選ばない。それは彼らの用語を使えば「革命闘争」なのだが、金正日政権が「人工衛星の打ち上げ」などといくら言っても、これだけのルール無視の「犯罪歴」があると誰も信用しないのは当たり前である。

 中国、ロシアも金正日政権を信用していないから国連で制裁に同意したのだ。金正日政権が認識しなければならないことは、自分たちが国際社会でいかに信用されていないかという事実である。

 ところが彼らは、自分の言動は不問に付し、国連常任理事国や国連議長が怪しからんから「謝罪せよ」、北朝鮮に関する「不当な決議を撤回せよ」という、いつもの身勝手な居直り強盗さながらの主張を展開している。

 国連議長に向かって「謝罪」を求めたのは金正日政権が最初である。そして「政治・軍事的には堂々たる強国だ」という唯我独尊的自己認識を臆面もなく披露したことで、金正日政権は世界に「自己を客観視できない、ならずもの」であることを見せつけた。

 滅茶苦茶なことを言って自己主張する人や国は国際的には珍しいものではない。確かにイスラエル、インド、パキスタンも核を持ったが秘かにであった。核保有で国連常任理事国を相手に正面から戦いを挑んだのは金正日政権が初めてで「歴史に残る」。

 金正日政権がこんな思い違いをするようになったのは、直接的にはブッシュ政権が甘やかし、誤解をさせたからだ。だがそれによって、彼らは国連を敵に回し墓穴を掘りつつある。こんなことは誰も予測できなかったことで、政治は本当に生きものである。

 金正日政権に滅茶苦茶なことを言われても、中国のクレームによって船舶を臨検できる安保理決議がまとまらずに、いたずらに時間が過ぎている。中国が金正日政権に恩を売り、影響力を残したいと言う思惑なのかもしれないが、はほどほどにすべきである。

 北はオバマ大統領が就任した途端に、弾道ミサイルを発射し、核実験を強行した。この行為はオバマ大統領を馬鹿にしているからだ。今回の核実験に対して、実質を伴わない制裁で終わるなら、国際社会は金正日政権と同じく、オバマ恐れるにたりず。核を作った方が勝ち、となる。そしてオバマ政権の権威は地に落ちる。

 かくして核拡散防止条約は機能を失い、国際秩序は崩壊していく。オバマ政権は第七艦隊で北朝鮮を包囲するのか。それともぶざまなブッシュ政権の亜流になり下がるのか。このような情況の中で、わが国は核保有を含め安全保障をどうするか、徹底的な論議が求められている。

 自民・民主両党は、安保を総選挙の最大のテーマーにして戦って欲しい。

更新日:2022年6月24日