北、核実験の意味

佐藤勝巳

(2009. 5.28)

 

 5月25日に再び核実験を強行した金正日政権の意図をめぐって、色々のことが言われている。

 オバマ政権を話し合いに引き込むためとか、金正日氏の体調が不良のため、今のうちに後継者体制を築くためとか、はたまた後継者をめぐる内部対立説等々。

 本当にそうなのだろうか。

 金正日政権は、金日成生誕100年に当たる2012年までに思想、軍事、経済を強化して「強盛大国」にすると1999年の「新年共同社説」で提起して以来、その大きな政治目的を最大課題に突っ走ってきた。目標実現はあと3年後に迫っている。

 6者協議の過程で、北朝鮮は、ブッシュ政権の間に米朝国交正常化を実現して日本を孤立に追い込み、戦前の「償い」をさせ、韓国左派政権を「民族共助」で騙して、強盛大国実現を図ろうと青写真を描いている、という話がしばしば伝わってきていた。

 しかし2006年誕生した日本の安倍政権が、拉致解決を外交の最重要課題として金正日政権に独自制裁を科したことと、08年韓国に李明博政権が誕生したことで、彼らの青写真は大きく狂ってしまった

 また、彼らが勝手に期待したオバマ政権は、ブッシュ政権よりもはるかに手強く、ここでも彼らの思惑が大きく外れた。このまま行ったら強盛大国の実現は難しい情勢であるということが、昨年末にはっきりしてきた。

 そこで、昨年末から李明博政権を猛烈に攻撃し、今年4月には太平洋への弾道ミサイルを発射し、5月に地下核実験を行った、と私は見ている。なぜなら、本欄でも何度も書いているが、金正日政権の家臣たちの目はいつも独裁者金正日に向いているからだ。これは金日成時代から変わっていない。

 彼らにとっての「忠誠心」とは、独裁者の意向の先取り競争と言ってもよい。独裁者の行動様式は、全て主観的であり国際関係を考慮した客観的な行動など見たことがない。

 オバマ政権を対話に引き出すための強硬政策云々は結果であって目的ではない。次に、金正日氏の後継者問題は、北朝鮮の特権階級にとって最も微妙かつ重大な問題で、軽挙妄動できない。一つ間違ったら自分の首が飛んでしまう。テレビなどでミサイル発射や核実験を後継者問題と結び付けて云々している人がいるが、後継者問題と核実験とどう結びつくのか、いま一つ理解しにくい。

 上記のように金正日が立てた「強盛大国」の実現が難しくなってきたことへの焦り、具代的には3年後までに大陸間弾道弾の頭に核兵器を搭載することに目的を絞った表れではないのか、と考えるほうが一番分かりやすいのではないか。

 4月の弾道ミサイル発射について国連で、中国・ロシアは日本・米国の制裁決議採択に反対し、実体のない議長声明に格下げさせた。だが金正日政権は、翌5月、中国・ロシアをあざ笑うかのように地下核実験を強行し、両国は国際社会で大恥をかかされた。

 さすがに両国は怒って、ロシアは国連で米日に同調の構えを見せている。中国は実際どうなるのか分からないが、金正日政権が6者協議に復帰しなければ、中国独自の経済制裁をかける、とまで言いだした。この一事を見ても、金正日政権は、自主孤立、破滅への道を突き進んでいると誰の目にも分かるのであるが、自分の主観しかない唯我独尊集団の彼らは、そうは考えない。

 彼らの主観の延長線上には、韓国や日本は脅せばモノやカネが取れると考えていることだ。従って、韓国も日本もミサイルの発射を含む軍事挑発を、当然予測しておかねばならない。

 4月29日、北朝鮮の外務省は公然と、核もミサイルも実験は継続する。濃縮ウランの製造も実行する、とスポークスマン声明を出している。「核保有国・強盛大国」を目指してまっしぐらである。

 今まで6者協議では、北を除く5者は「金持ち喧嘩せず」で、適当にならず者集団に対応してきたが、今度はそうは行かなくなってきた。

 ここで日本の安全保障のあり方、日米同盟のあり方を抜本的に検討しなおさないと、とんでもない犠牲を払うことになりかねない。総選挙も大切であるが、国の安全保障はさらに大切であることを政治家たちに忘れないで欲しいと思っているのだが……どうなることやら。

更新日:2022年6月24日