巡航ミサイル保有の時期

佐藤勝巳

(2009. 3.30)

 

 3月27日、日本政府は、金正日政権の弾道ミサイルが失敗して、わが国の領土・領海に落下した場合撃ち落すことを安全保障会議で決定した。

 他方北朝鮮外務省は、24日、「(北のミサイル発射に対して)一部勢力は国連安保理で問題視すべきだと騒いでいる」が、これは「平和的な宇宙研究開発と利用に関する主権国家の自主的な権利に対する干渉」である。また「朝鮮半島非核化のための9・19共同声明『相互尊重と平等の精神』に全面的に違反することである」9・19 声明が破綻すれば「六者会談をこれ以上存続させる基礎も意義もない。そうでもなくても、朝鮮半島の非核化を遅延させることで自国の核武装の口実を作ろうとしている日本の不履行(石油支援をしないことを指す)によって、六者会談は破綻する直前に来ている・・・・・・対話で敵対関係を解消することができないなら、われわれには敵対行為を阻止するための力をさらに強化していく道しかない」という、いつもの六者協議を止めるぞ、核武装も進めるぞ、と過去にも何度となく聞かされてきたセリフで恫喝している。

 北朝鮮外務省はこの声明の中で、世界の多くの国が人工衛星を打ち上げているが、国連安保理で問題になっていない。それなのにわが国(北朝鮮)だけにあれこれ言うのは敵視政策だ、と言っている。この部分が北朝鮮問題の実は核心部分なのである。

 金正日政権は、過去に自分達が行ったことはすべて正しい、誤りはなかったという前提でいつも論理を組み立てている。例えば1987年の大韓航空機爆破は「韓国の自作自演」であり、金正日政権が実行したなどという奴は「敵の手先」「反動どものたわごと」などという信じがたい主張を声高に叫んでいる。

 ではなぜ、金正日政権のミサイルのみが国連安保理で問題にされるのかと言えば、1994年の米朝非核化のジュネーブ協定を破って裏で核開発をしていたのは金正日政権であるからだ。このことは天下周知の事実である。

 これまで数年続いた六者協議を見てみるがよい。六者協議の枠組みの中で合意されているにもかかわらず、拉致解決の日朝協議を拒んでいるのは金正日政権である。

 1997年に日本で拉致が顕在化してからも、その後5年間も「拉致は韓国情報部のデマとでっちあげ」と全否定してきた。ところが2002年9月、小泉首相が訪朝したら金正日は拉致を認めた。

 つまり自分達がそれまで「拉致はデマとでっちあげ」と言ってきたのは嘘であったことを、他ならぬ独裁者金正日が認めたのだ。「敵視政策」が聞いて呆れる。

 韓国に対して、明日にでも戦争をしかけるかのような言動を弄しているのも金正日政権だ。こんな政権を信用出来るはずがない。だから国連で問題になるのだ。要するに国際的に常識の通じない手に負えない「ならずもの国家」と見られているから、国連安保理で制裁の対象になるのだ。この政権は崩壊しても自分に問題があるとは思わない。

 さて、10年前テポドン1号を発射されたとき、日本で何が起こったか。当時小渕内閣の官房長官であった野中広務氏は、金正日政権にコメ100万トンを援助すべく根回しをしているときであった。勿論、コメ支援はパーになった。NHK「クローズアップ現代」の女性キャスターに「野中さんは今回のミサイルをどう思いますか」と、判断の甘さをずばりと衝かれている。

 野中氏が何と答えたか正確には記憶していないが、苦渋に満ちた氏の表情がアップで画面に映し出されたことを覚えている。野中氏はそれ以来北朝鮮問題に関与しなくなった。

 三陸沖に飛んできたテポドン1号に、金正日政権を支持してきた在日朝鮮人は、「自分がカンパしたカネでできたミサイルが、自分の住む日本の上空に飛んできた。冗談ではない、これ以上つき合いきれない」と言って金正日政権と総聯から離れ、多くの在日朝鮮人が、「朝鮮籍」(法律上は「記号」であって国籍ではない)から「韓国籍」に切りかえるため各地にある韓国領事館を訪れたのであった。今度はどうなるのか注目される。

 もう一つ筆者の注目を引いたのは、10年前まで北朝鮮への制裁は、公務員の渡航禁止程度の名目的な制裁であったが、このたびのわが国政府の対応は冒頭に紹介したように早かったことだ。

 この政府の変化は、2002年金正日が拉致を認めたことによって日本社会の金正日政権への認識が一変したことも大きいが、その後の経緯も大きく作用している。

 金正日政権が、拉致・核に対して「ならず者」的な対応をくりかえしただけではなく、六者協議で北朝鮮の非核化を論議している最中にミサイルと核実験を強行したことや、それを契機にブッシュ政権が金正日政権に対して宥和政策に転じ、テロ支援国家指定を解除してしまったことなどだ。心ある日本人は日米同盟の再検討を真剣に考え出したところに、テポドン2号(改良型)の発射である。

 このような歴史的経過を踏まえて日本政府は手際よく動いたのだが、迎撃ミサイルの配備程度で日本の安全保障は本当に大丈夫なのか。アメリカのゲーツ国防長官は北のミサイルを撃ち落さないと早々に表明している。

 アメリカと金正日政権の軍事力の差は比較にならないのだが、現実は金正日政権が核ミサイルを保有する直前まで来ている。この事実は、米軍の抑止力が金正日政権に作用していない証明だ。

 わが国は、相互抑止という観点から北朝鮮のミサイル発射基地を攻撃できる巡航ミサイルを所有すべきである。抑止力が有るか無いかで、安全保障の意味がまるで違ってくる。至急論議すべき時期が来ている。

更新日:2022年6月24日