金賢姫氏との面会――歴史は動くのか――

佐藤勝巳

(2009. 3.13)

 

 元大韓航空機爆破実行犯キム・ヒョンヒ(金賢姫)氏と、拉致被害者田口八重子さんの兄・飯塚繁雄氏、長男飯塚耕一郎氏が3月11日韓国釜山市で面会した。

 過去金大中・盧武鉉両政権の10年は、「北を刺激してはならない」と金正日政権に媚へつらい、大韓航空機爆破実行犯と日本の拉致被害者家族の面会を許すなど考えることさえ出来なかった。しかも今回の主催者は民間団体ではなく、日韓両政府の意思で面会が実現したのだ。日韓連帯と言う点で特筆大書すべき変化と評価できよう。

 このような変化は、いうまでもなく韓国国民が保守中道の李明博政権を実現したことに他ならない。

 いまひとつは日本で、2006年安倍晋三政権成立以来金正日政権に対し、拉致に進展がなければ金正日政権に、油1滴、コメ1粒、部品1個も与えないという政策を堅持し続けてきたことによる。

 6者協議の結果は、日本政府の対北朝鮮政策が最も正しかったことが事実によって証明された。日本政府がこのような原則的立場に立つのに戦後数十年を要した。拉致が顕在化してからでも10年近くを必要とした。救出の苦難の戦いは今もなお続いている。

 今回の日韓両政府の動きを金正日政権の側から見ると、政治的には日韓両政府が連帯して、大韓航空機爆破が金正日政権の正真正銘のテロ行為であったことを認めよ、と迫っていることを意味する。オバマ政権も今回の日韓両政府の動きを支持することはあっても否定することは出来ないはずだ。

 ブッシュ政権は、昨年10月テロ支援国家指定を解除した。それに対して今回の日韓両政府の措置は、「テロ実行犯」と日本人被害者家族の面会を実現、ブッシュ政権の誤りを客観的に糾しことになっている。

 このたびの日韓両政府の措置が、今後6者協議の場で関係国、特に米中に影響を与えないはずがない。その観点からも、今回の対応は高く評価できるものである。

 しかし、金大中氏ら韓国の左派グループは、李明博政権の北朝鮮政策が緊張を呼び起こしていると詭弁を弄し、「キム・ヒョンヒ偽者」説を依然として唱え、金正日政権の大韓機爆破は韓国情報部の「自作自演」というデマに呼応している。

 また、韓国の国民の中には北朝鮮と同じく、「日本がまず解決すべきは過去の後始末だ。拉致問題はそれから」という「歴史認識」の違いが存在している。

 さらに韓国で拉致されている被害者に漁業労働者が多いことから、知識を重んじ労働を低く見る「伝統文化」などが複雑にからみあって、韓国で国民レベルの拉致救出運動の発展には至っていない。このことは実践のなかで既に明らかになっている。

 韓国「統一部によると盧武鉉前政権末期の2007年には年間15万9214人だった南北の人的交流が、08年には18万6775人へと17%増加した」(朝鮮日報)3月11日)という。この数字は、金正日政権に制裁を科している日本と比較し、控えめにいって韓国人の金正日政権に対する認識の甘さを如実に示している。

 他方、日本では民主党小沢一郎代表のように安保問題を無視して「拉致はカネで解決」せよという考え(小沢氏は済州島もカネで買えと発言している)が、自民党山崎拓・加藤紘一議員、河野洋平衆議院議長など政治家の間に根強い底流として存在している。

 こう見てくると、日韓の連帯はむしろ厳しいと考えるべきであるが、物事何もかも一挙にうまくいくことなどない。これを契機に「歴史が動く」ことにするのかどうか、韓国のことは別にして、次の総選挙で日本の国民が英知を発揮し、正しい選択が出来るかどうかに掛かっていると言える。

更新日:2022年6月24日