日韓の連携で情勢の転換を

佐藤勝巳

(2009. 1.15)

 

 新春早々の1月12日、日韓首脳会談がソウルで開催された。

 韓国の李明博大統領は、北朝鮮の核問題について、6者協議の中で日韓が提携していきたい、また米国も含めた3カ国の協力が非常に重要だ、韓国は北朝鮮に一貫した方針を堅持している、中国の協力も重要でより効果的だ、と日韓米3国の提携の重要さに言及した。

 これに対して麻生太郎首相は、アメリカの新政権の発足を受けて、金正日政権が日韓米3国の分裂を企ててくる可能性がある、と懸念を表明、3国で「緊密に連携することが大事だ。6ヵ国協議を通じて北朝鮮に核放棄をさせる基本方針を米国の新政権とも確認したい。中国との連携も重要だ」(産経新聞1月13日)と、より踏みこんだ認識を披瀝した。

 この両首脳の発言に全面的な賛意を表する。

 韓国に金大中政権・盧武鉉政権が出現してから、金正日政権の評価をめぐって日韓に亀裂が生じ、2006年10月に金正日政権が核実験して以降、事実上米朝2国間交渉に方針を転換したアメリカとも、大きなずれが生じていた。

 譲歩に次ぐ譲歩を重ねたブッシュ政権は、結局、金正日政権に対するテロ国家指定を解除してしまった。この事実は、心ある日本国民に、アメリカ政府を信用してよいのか、という日米同盟への強い疑念を抱かせることになった。

 麻生首相が「北朝鮮に核放棄をさせる基本方針を、米国の新政権とも確認したい」とわざわざ断っているのは、ブッシュ政権の対金正日政権に対する甘さというより、日本無視の姿勢に対する危惧の表明に他ならない。

 06年9月に誕生した安倍晋三内閣が、金正日政権の核開発と拉致に対して制裁を取り続けることが怪しからん、と韓国の金大中元大統領と盧武鉉前政権は、日本政府の態度を非難しつづけたが、日本政府は、拉致解決に進展がなければ油1滴、コメ1粒金正日政権に援助しないと動じなかった。

 金正日政権に対して「太陽政策だ」「抱擁政策だ」と言って、100億ドルもの援助をし、核開発を事実上支援してきた金大中政権と盧武鉉政権とは、日本政府は連携など取れなかったのが真相である。

 李明博政権は、金正日政権に対してコメや肥料等を援助せず、北の核問題で日韓連携し、拉致も共に解決しようと表明したことは画期的な前進と言える。これは高く評価すべき日韓の肯定的変化である。

 米新政権が、どんな北朝鮮政策を打ち出すのか不明であるが、アメリカの政治文化から予想されることは、ブッシュ政権が実行した金正日政権に何かを与えると何かを得ることができる、という誤った主観的政策の延長ではないかと思われる。

 オバマ政権にとっての朝鮮半島は、中東やヨーロッパに比較したら、重要度は極めて低い。要は金正日政権の核を拡散させなければよいのである。また、経済問題からも朝鮮半島問題に真剣に関わる余裕などない、と私は見ている。

 その結果、日本や韓国の安全が脅かされることになる。だが、当たり前のことであるが、脅かされるものが、従来のようにアメリカに依存するのではなく、自分で考え、行動しなければならない。

 そこで日韓の連携が極めて重要な意味を持ってくる。そもそも6者協議の中でヒル国務次官補が幅をきかすことが出来たのは、韓国がヒル氏の動きを絶えず支持してきたからだ。より正確な言い方をすると、金正日政権の意に沿ってアメリカ国務省をオルグ(説得)し、米朝2国間交渉に路線を転換させたのが金大中元大統領と盧武鉉前政権だったのだ。

 李明博政権の出現で、この構造が根底から崩れた。金正日政権にとって、これは大きなダメージであり、李明博政権に罵詈雑言を浴びせている最大の理由はここにあると私は見ている。

 今後、6者協議の中で日韓が連携すれば、オバマ政権は、核や拉致で金正日政権と簡単に裏取引が出来なくなる。それは中国も同じだ。

 1月13日付け本欄で、アメリカに対しての相対的独自性の必要性を強調したが、日韓連携はその一つで、〝北東アジアの悪魔〟をわれわれの手で葬らなければならない。この場合、最も心配されるのがわが国の総選挙の結果で、対北朝鮮政策が変わったら大変なことになる。

更新日:2022年6月24日