日中韓3国首脳会談の意味

佐藤勝巳

(2008.12.17)

 

 12月13日、福岡県大宰府で日中韓の首脳会談が開かれ、3国の経済危機への「共同対処」や北朝鮮の核問題などへの連携が、確認された。

 ドル保有高の一番多い中国、二番目の日本が、韓国の金融危機をバックアップすることを確認したことで、当面、韓国は国際通貨基金(IMF)管理下に置かれることをまぬがれた。この首脳会談で一番胸をなでおろしているのが韓国李明博大統領であろう。

 なぜなら、1年前、李明博大統領は就任早々、アメリカの牛肉輸入問題で左派の激しい抵抗に遭った。数ヵ月にわたるローソクデモに、李明博大統領は果断な措置を取らなかったため、国民から統治能力を疑問視されただけでなく、不安を抱かれていたからだ。

 今回の金融恐慌は外部要因とはいえ、経済を得意とする李明博政権が国際通貨基金の管理下に置かれることになれば、再び左派勢力を元気づかせ、李明博は大きなダメージを受けることになったであろう。

 だが、日中韓3国は連携を強化した。韓国の混乱を期待していた金正日政権の思惑は、大きく外れた。3国の連携は、金正日政権包囲網に繋がるから、さぞかし苛立っていることだろう。

 その金正日政権に、更に窮地に陥る事態が起こった。12月8~11日開かれた6者協議代表者会議で、金正日政権はサンプル採取の文書化を拒否したため、次回の日程も決まらず休会となった。

 そこでアメリカ・ロシア・中国・韓国・日本は、金正日政権への重油支援中断を決定したのである(12月14日付産経新聞)。この措置は、金正日政権にとって予想外の大きなダメージを与えるものと推定される。

 ぼちぼち金正日政権が、日本に何か仕掛けてくるのではないかと思っていたら、果たせるかな蓮池透前家族会事務局長が、共同通信に制裁解除、重油支援、話し合い解決をすべきだと発言し出した。

 それはともかくアメリカを始めとする5者が、サンプル採取を文書化で約束することもなく、妥協して核軍縮を進めたら、世界平和への裏切りとなる。いくら何でもヒル国務次官補もそこまでは出来なかったということであろう。

 前にも記したとおり、金正日政権は、サンプル採取など認めることができない。サンプル採取を認めたら、過去に抽出したプルトニウムの量がすべて明らかとなり、その行方を追及され、全世界に申告書の出鱈目さ加減が暴露されてしまうからだ。

 結局、なるようになっただけだ。それを何とかなるかのような幻想を抱いて交渉のリーダーシップを取ってきた、アメリカのライス国務長官とヒル国務次官補の責任はきわめて重大だ。

 しかし、ライス・ヒル両氏はまもなく政権交代で国務省を去る。ただヒル氏は、民主党の一部に高く評価され、オバマ政権入りをするのではないかと噂されていた。だが、6者協議が事実上破綻(はたん)したことで、ヒル氏の国務省に残る可能性が、困難になることを期待したい。

 だが、オバマ政権になって交渉担当者が変わっても、あまり差意はない。本欄で私が繰り返し指摘してきたように、アメリカは自分たちの価値観で金正日政権を判断して外交を推進するという点で、民主党も共和党も同じだからだ。

 そもそも、日本の安全や拉致被害者の救出を、アメリカに依存する考えは誤っている。自分のことは自分ですべきだと、今こそ考えを転換する時期であろう。

 それにしても、金融恐慌が実体経済に深刻な影響を与え出した。その過程で中国の金正日政権に対する態度は注目される。

 上述のように李明博政権を助け、金正日政権に対する重油支援の中断に容易に同意した中国には、アメリカでの政権交代時を狙って、6者協議のリーダーシップをアメリカから奪いたいという思惑がみえる。

 重油支援を5者が止めれば金正日政権の中国への依存度が自動的に高まり、中国の金正日政権への発言力が増す。李明博政権を金融支援することで韓国に恩を売り、朝鮮半島全体に対する発言力を強化できるという思惑も当然あると思われる。

 皮肉なことであるが、マルクス・レーニン主義には「下部構造(経済制裁)が、上部構造(政治)を支配する」というテーゼがある。

 その通り中国共産党に対する一党独裁の放棄を求める「08憲章」がインターネット上で発表され、中国国民のなかに広がりつつある。

 中国もアメリカも(共産主義も資本主義)、何がどうなるのかわからない混沌とした情勢が、全世界に出現しつつある。

更新日:2022年6月24日