金正日宮殿に韓国のスパイが……

佐藤勝巳

(2008.10.14)

 

 10月1日、本ネット(「現代コリア」)に掲載されたゴ・ズミン(医者)氏の「医師が『推理』してみた金正日の健康状態は?」を、非常に興味深く読んだ。詳細はゴ氏のコラムを読んでいただきたいが、そのなかでも、患者の病気を医師が「推理」することが大事だというところだ。

 実は私も、18年前(1990年)に脳梗塞を患い、1年近く療養した経験がある。今でも月1回主治医の検診を受けている。主治医とは長い付き合いであるから、有名政治家が脳梗塞で倒れるたびに、梗塞の位置、範囲、後遺症など「推測」をもとに何度も授業を受けている。

 ゴ・ズミン先生の話と私の主治医の説明は殆どが重なっている。さすが専門家と感心した。

 金正日氏の病気について、20007年6月、「週間現代」「時事通信」「米ブルームバーグ通信」は、5月にドイツの医師団が訪朝して、「心筋梗塞」または、「動脈閉塞」(何を指しているのかよく分からない)の手術を行なった、と報道していた。

 今年9月の「重病説」報道のときは、フランスの医師団の訪朝説が流れた。ただ、外国の医師団が訪朝したからといって、金正日氏が手術を受けたとは言い切れない。専門医が言っているように、出血なら分かるが、脳梗塞で手術という話は、余り耳にしたことがないからだ。

 ただ、われわれ素人が見ても、不摂生をしてきた人間が、60代半ばになって、あの大きなお腹では循環器系統に障害が起きても不思議ではない、と思う。おつきの医師たちは、多分、減量を勧めていると思われる。それを実行しないのだから、病気になっても自業自得と言うべきだ。

 今回、中国の軍医たちが金正日氏の手術を行なったと報道されている。だが、私にはどう考えても「中国」の医師という点がひっかかるのだ。というのは、朝中関係の対立・緊張は 06年7月金正日政権のミサイル発射と、10月の核実験の強行で、「建国以来」のものと言われていたからだ。

 また9月30日、本ネットで紹介した総聯内部に配布された統一戦線部非公開文書「新しい転換局面を迎えた朝鮮半島情勢に対して」(恵岡隆一レポート48号付録)でも、朝中関係について一言も触れていない。

 06年のミサイル・核実験を契機として、米朝直接交渉が始まるのだが、上記文書は「偉大なる将軍様におかれては、同時にブッシュ政権を朝鮮との直接交渉に引き出す巧みな外交戦術も駆使された」と記している。

 ここで言う「巧みな外交戦術」とは、①金正日政権がブッシュ政権に対して、在米韓国人を通じて「中国の金正日に対するテロの脅威を強調、米政府にパートナーになる旨命乞いをした」、②金正日政権は、韓国政府・金大中氏などを使って、ブッシュ政権に、北と直接対話するよう執拗に工作をした、③ブッシュ政権は、イラクでの戦争が泥沼化していた最中でもあり、米朝直接交渉路線を選択した、という点を指しているのではないかと私は見ている。

 米朝直接交渉の背後には、ミサイル・核開発をめぐって中朝の激しい対立が存在したことを見落としたら、事実を誤認しかねない。

 このような流れの中で、金正日政権が最高権力者の頭部を、中国の軍医に執刀を依頼するだろうか。そんなことは100%あり得ないことだと思っているが、如何であろう。

 それにしても、北朝鮮の中では最高権力者金正日氏の病気は、極秘中の極秘である筈なのに、どうして韓国に漏れるのであろうか。漏洩した情報が事実なら、金正日氏のごく身近に、韓国に情報を流すスパイが存在するということになる。本当なのだろうか。本当なら、これは興味ある話である。

 金泳三大統領時代までの韓国情報部なら、事実と違う情報を意図的に流し、相手の反応を探るということが出来たかも知れない。だが、金大中・盧武鉉時代の「10年の空白」を持つ国家情報院は、いま体制立て直しの過渡期にある。金正日政権に情報戦をしかけるなど、ちょっと考えにくい。

 10月11日、北朝鮮の公式メデァは、金正日氏の写真を11枚公表したが、いつの写真か特定できず、さらに憶測を呼んでいる。

 今回の「重病説」の真相は依然不明であるが、はからずも多くの日本国民が、金正日氏の「無常」を大いに期待していたことを知って、なるほどと思っている。

更新日:2022年6月24日