北は「建国以来の危機的状況」

佐藤勝巳

(2008. 9.30)

 

 ブッシュ大統領がテロ支援国家指定等を解除しないことを理由に、金正日政権は、国際原子力機関(IAEA)の封印を撤去し、プルトニウム再処理施設を再稼動すると、彼らの表現を借りるなら、「超強硬手段」(脅迫)に出て来た。

 これに対して韓国と米国は、性懲りもなく、金正日政権との対話のためにヒル国務次官補の訪朝を関係国に検討している旨の報道が流れている。

 6者協議が始まってから5年。金正日政権以外の5者はこの協議を通じて、どんな利益を手にしたのかと問えば、多分大方の人は「平和が維持でき大量難民の発生はなかった」と答えるのであろう。

 しかし、金正日政権は、どこの国と戦争したわけでもないのに、自国の人民を300万人以上餓死させている事実をどう理解すればよいのだろう。

 ベトナム戦争では、米兵5万8000人、ベトナム人100万人死亡。朝鮮戦争では、米兵5万4000人、韓国兵5万人、北朝鮮兵250万人、中国兵 100万人死亡、J・ハリデク『朝鮮戦争』(岩波書店)は、南北朝鮮の合計死者数を355万人と記している。太平洋戦争での日本人死亡者は221万人。北朝鮮での餓死者はこれをはるかに上回っている。

 戦争でなく〝平時に〟国民300万人以上を餓死させた「悪魔の政権」と、ブッシュ政権は馴れ合っている。この300万人以上の餓死者の意味を理解しようとしていない米政府、アメリカ国務省に人権など語る資格はない。

 今年(08年)の7月、金正日政権は北朝鮮の現状を「建国以来の危機的状況」と捉えていることが分かった(朝鮮総連幹部用内部資料・ネット恵岡隆一レポート48号付録より)。

 上記資料によると、朝鮮労働党統一戦線部は、ブッシュ大統領の「テロ支援国家指定」「敵性国家貿易法」などの解除を既定の事実とし、「これは敬愛する金正日将軍様の前に、米国史上もっとも好戦的で反動的なブッシュが膝を屈して降伏宣言をしたのも同じである」と勝利宣言している。

 だが9月30日現在、ブッシュ大統領は「テロ支援国家指定」「敵性国家貿易法」解除にサインをしていない。金正日政権は、国際原子力機関の職員追放を匂わせ、使用済み核燃料棒からプルトニウムを抽出するぞと、恫喝をかけてきた。ブッシュ大統領は、米国内の反対勢力の圧力もあって、テロ支援国家指定解除のサインは、政権末期までどうなるのか微妙となっている。

 だが、金正日政権には「建国以来の危機的状況」が依然続いているのである。

 最近韓国のマスコミは、「北朝鮮に重大事態が発生したなら」(金正日が死亡したら)、難民などをはじめ緊急事態にどう対処するのか、という趣旨の記事が、多く見られるようになった。

 金大中・盧武鉉政権は、金正日政権に計100億ドル援助したというが、援助を手にした金正日政権は、国民を餓死させ、核とミサイルの実験を行い、東アジアの安全を脅かしている。そして今、金正日が他界しなくとも「建国以来の危機的状況」を迎えている。

 心ある韓国国民は、金大中・盧武鉉政権の責任を断固追及すべきではないのか。日本人も拉致被害者を救出しなければならないのは同じである。当該政府と国民の一生懸命な姿を見て、世界は初めて協力するのだ。韓国国民が来るべき大激動をどう戦うかを、世界は注視している。

更新日:2022年6月24日