組閣人事の危うさ―拉致で抗議殺到―

佐藤勝巳

(2008. 9.26)

 

 中山恭子・前拉致担当大臣が、拉致問題からはずされた。関係者は、「なぜ」という疑問を持ったに違いない。まさか「夫が国土交通大臣だから、夫婦で大臣はさせられない」というのが理由ではあるまい。

 麻生総理大臣は、直近に控えた選挙に勝つため、票を集めることの出来る人を大臣にしたことは、素人でもわかる。総理大臣は、拉致問題で票を集めることは難しいと判断したから拉致担当大臣を官房長官に兼任させたと思われる。

 選挙に負けたら元も子もないから、この人事は理解の範囲内であるが、拉致担当補佐官も置かないということは、麻生総理の政策順位の中で拉致解決が高くない、という具体的な現われである。

 私の取材によれば、首相官邸に、閣内・自民党・そして国民から中山恭子氏を拉致からはずしたことに対し、猛烈な抗議が寄せられたという。そして9月25日夕方の官房長官の記者会見で、中山恭子氏への拉致担当補佐官就任要請の発表となった。

 安倍内閣は拉致対策本部を作り、中山恭子氏を総理大臣拉致担当補佐官に据えた。以来、中山補佐官は、家族会・「救う会」「議連」と政府の窓口として、終始奔走した。また、中山恭子氏は政府内に根強くある対北朝鮮「融和論」に、一貫して同調しなかった。

 政府にとっても、運動側にとっても、いかなることがあっても揺るがない中山氏の信頼は大きかった。このことは誰もが認めるところであろう。

 他方、「この2年間、拉致解決は何も進まなかった」という批判もある。だが、金正日政権を相手にして、何か打つ手があるのだろうか。制裁しかない。それを強める以外いないのだが、それが出来ないでいるのは、拉致対策本部の責任だけではない。

 外務省藪中事務次官や山崎拓衆議院議員などは、融和政策を唱えているが、これはナンセンスな主張である。

 なぜなら、韓国政府はここ10年間、金正日政権に100億ドルもの援助をしたにもかかわらずその代償は、ミサイルと核の実験だった。われわれはこの事実を忘れてはならない。

 政府も民間も、組織は〝人〟である。多分、中山恭子氏が政府の拉致問題から離れたら様相が一変するであろう。麻生総理は、選挙に勝利するためにもそんなことをしてはならないのだ。

 最も、総選挙で与党が勝つかどうかも分からない。巷では「民主党に一度やらせてみたら」という声が意外に多い。民主党が天下を取れば、拉致問題や安保問題など山積している諸問題をどう処理するのか、皆目見当もつかない。

 北朝鮮の最高権力者の健康状態も優れない。米国の大統領選挙の行方もわからない。金融不安は後を絶たない。物価も上がりだした。世界は流動的で不透明である。今こそ自分の一票で政治を、世界を変えるチャンスである。

更新日:2022年6月24日