ハッタリは無視すべきだ

佐藤勝巳

(2008. 8.27)

 

 金正日政権は、米国が「テロ支援国家指定解除」をしないから「核の無能力化を中断する」旨の外務省報道官声明を、8月26日発表した。

 本欄で繰り返し指摘してきたことであるが、金正日政権は核の放棄など全く考えていない。彼らにとって6者協議の位置づけは、非核化をする振りをして5者からどれだけカネやモノを巻き上げるかという――詐欺師が詐欺を働く――場所にしか過ぎないのだ。

 今回のように詐欺が困難だと分かると、「非核化ヤーメタ」と言ってくる。この手法は、金日成時代から変わらない外交の基本的パターンである。相手を「恫喝」して要求を勝ち取るというのは、ならず者たちの万国共通の手段でもある。

 そもそも交渉ごとというのは、どんなに美しい言葉で取り繕うとも、基本的には相手を脅して目的を達するというものだ。だから、脅しに屈した方が負けだ。双方が引かなければ戦争となる。

 今回のハッタリにブッシュ大統領が屈してテロ支援国家指定解除にサインするだろうか。金正日政権は、前述の声明で今まで無力化したものまで元に戻すぞ、と脅しをかけている。ここまで言われるとブッシュ大統領も、サインしたくとも出来なくなったのではないか。

 不謹慎を承知で言うのであるが、「面白い」。

 なぜなら、金正日政権が誤りを犯す時はいつも「主観的判断」のみで、相手がどう出てくるかの読み違いをする場合が多いからである。

 仮に、ブッシュ政権が彼らの言動を無視して放置したら、金正日政権にはテロ支援国家として諸々の制裁が継続される。つまり、現状が続くということである。

 だがこの政権は、国民が餓死しても支配者たちは全く「動揺しない」という「強さ」がある。旧共産主義国家の国民無視は珍しくないが、そのなかでも金正日政権は特殊例外である。

 ただ今のところ、韓国からモノやカネが北に動く気配はない。アメリカが約束した50万トンの食糧支援も当然止まる。

 これまで特権階級は、外から入る支援物資を横領し市場に流して、私腹を肥やしてきたが、私腹を肥やす元手が入らなくなるとどうなるのか。

 金正日政権にとって、テロ支援国家指定が解除されないなら、日朝交渉を進めるメリットはない。だが、「ワシントンが駄目なら東京があるさ」ということで、詐欺師たちの目が東京に向く可能性はある。その場合でもブッシュ大統領の気を引くという範囲内での話であるが……。

更新日:2022年6月24日