6者協議は事実上終わった

佐藤勝巳

(2008. 7.16)

 

 7月10日~12日の北京での6者協議は、予想通り金正日政権の核施設検証問題が、時期も方法も決まらないまま終幕した。

 金正日政権の当面の目的は、テロ支援国家指定解除にあった。その目的を事実上達成した彼らは、6者協議に真面目につきあうことも、日朝交渉に応じる必要もないのだ。

 だから、なるようになっただけである。6者協議のこの5年間で、金正日政権が失ったものは、爆破させたポンコツの冷却塔だけ。原子炉から核燃料棒の抜き取りが終了しているかどうかも不明。しかし金正日政権が手にしたものは、20万トンの重油や、韓国からの莫大なカネとモノが、金正日政権延命に手を貸している。

 ブッシュ政権が金正日政権に手玉に取られたのは、「業績を残すため妥協を繰り返している」との説が広く流布されているが、本当にそうなのだろうか。

 ブッシュ政権の、金正日にモノやカネを与えれば妥協をしてくるという米国流価値観で対処したことが、このような無残な結果を生んだ、と私には見ている。

 6者協議でも明らかのように、金正日政権にモノを与えれば、更に因縁をつけて高い要求を突きつけてくる。それに対してブッシュ政権は、自らの認識を改めるのではなく譲歩を繰り返した。そのために金正日政権の餌食となったのだ。

 金正日政権との交渉の基本は不当な要求を断固として拒否することである。ブッシュ政権が、6者協議の中でバンコ・デルタ・アジアの送金問題で妥協せず、原則を貫いたら、必ず金正日政権が妥協してきたはずだ。

 昨年末も、申告を怠った北朝鮮に、米国など5者が「行動対行動」ということで懲罰を加えたなら、必ず妥協してきたはずだ。

 だが、ヒル国務次官補らは全て逆の〝妥協の道〟を選んでしまった。金正日政権が一番恐れているのは「力」である、ということを放棄した時点で、結果は見え見えであった。

 それでは、拉致がなぜかくも長期にわたって解決できないのか、答えは簡単である。日本は「力の行使が出来ない」からである。

 6者協議に意味があったとすれば、われわれが米国の民主・共和両党の金正日政権認識が、どんなに主観的でいい加減のものかということを、嫌というほど認識させられたことだ。

 したがって、日本は朝鮮半島を含むアジア政策では、米国に協力するが依存してはならない、ということである。

 半年後には米国に新しい政権が誕生する。が、民主党政権になろうが、共和党政権になろうが、朝鮮半島政策ではまた、同じことを続けることは間違いない。

 その米国に日本がどう対応するか、という外交上の重大な課題が提起されている。もっと言えば、日本外務省は、6者協議の中で、なぜヒル国務次官補の独走を許したのか。深刻な総括が求められている。

 それと、日本の安全保障は構造的に米軍の支配に組み込まれていることは公知の事実であるが、この関係をどう改善していくのか、真剣な論議が必要である。また、独自の拉致解決の方策を緊急に模索する必要がある。

 山崎拓議員らは、米朝国交樹立が近いと見て、バスに乗り遅れたら大変だと大騒ぎをしていたが、北京での6者協議を見る限り、バスは故障して動きだしそうにもない。

 他方、「救う会」の中にも日朝実務者協議を契機に日本政府が制裁解除に動くと判断、政府と共に救出運動が出来ないとの考えが顕在化している。

 このたびの6者協議での金桂寛外務次官は、斎木昭隆アジア大洋州局長に会っても、担当が違うとはいえ「再調査」どころか、ただ斎木局長の話を聞くだけであったという。

 実務者協議から1ヶ月が経過しているのに日朝交渉に何の動きもない。今回の6者協議で日本政府は、「拉致の進展がなければ重油は出さない」という従来のスタンスを崩していない。

 政府にブレが見られたことは確かである。だが、ブレがみられたから政府を信用できない、政府と一緒に救出運動ができない、というのはあまりにも単純すぎる。政府が「救う会」の思うとおりに動くはずもないし、考えが違うということがあってもそれは避けがたいことである。

 「救う会」全国協議会はいままで、政府の拉致対策本部が06年10月に決めた「6項目の救出方針を支持」してきた。6項目が変わったわけではない。

 だとすれば運動の側が進んで離れるのは、金正日政権と妥協したい政治家、官僚を喜ばすだけだ。拉致対策本部を孤立させてどうやって拉致を解決することが出来るのか。

 大事なことは、拉致被害者を取り戻すための方策を、綺麗ごとではなく政府と国民が一丸となって考え、行動していくことであろう。

更新日:2022年6月24日