テロ支援国家指定解除をめぐって

――座り込みを覚悟し、柔軟に対処していこう――         

佐藤勝巳

(2008. 6.30)

 

 ブッシュ大統領は、「拉致の問題は忘れない」と言いつつ「テロ支援国家指定」解除に踏み切った。

 この措置が、同盟国日本にとって拉致解決と安全保障にマイナスに働くことは言うまでもない。 

 このたびのブッシュ政権の選択は誤りだと思うが、自国の「利益」(政策を)を犠牲にして外国の「利益」(要請)を優先する外交などあり得ないことだ。なるようになった、と言えるのではないか。

 われわれは、ここで「日本人が金正日政権に拉致されている」という現実を、もう一度冷静に確認する必要がある。救出の責務はわれわれにあるのだ。わが国政府と国民の間に、自力で救出するという考えが確立されているかと言うと、過去は勿論、現在でもそうとは必ずしも言いきれない。

 私は、最大の問題はこの点にあると前から思っている。アラブ諸国と敵対関係にあるイスラエルは、色々な手を尽くして、米国がイスラエルを支援しなければならないような関係を構築し、自国の安全を守っている。 

 かつて韓国も、自国の安全を守るために、駐韓米軍の存在が必要であった。そのため韓国から駐韓米軍を撤退させないために、ベトナム戦争に韓国軍数万人を派遣した。イスラエルや韓国の行為は「自国の安全」のためだ。

 わが国の拉致に対する理解は「気の毒」「可哀相」という水準で、核兵器と同じ「安全保障の脅威」とはまったく受け取られてはいない。仮に、そう理解されても、韓国やイスラエルのような対応を現在の日本が出来るかというと、それも難しい。

 しかし、政府は、日本人拉致問題を解決しないと米朝交渉が進まない、という関係をブッシュ政権との間で築くことを目的意識的に追求したかどうか。大きな課題を残したと思う。 

 家族会や救う会が運動を始めて、最初の5年間は誰も相手にしなかった。 金正日が拉致を認めても、政府が救出に取り組むのに、安倍晋三政権が成立するまで4年の歳月を必要とした。それから2年近く「圧力と対話」路線が続いてきた。

 だがブッシュ政権は、安倍政権成立と同時に「圧力なき対話路線」に転換し、遂に「テロ支援国家指定」を解除したのである。わが国内部にも対話路線の声が今、にわかに高まってきている。

 政界や一部マスコミはともかく、6月21日、盛岡市で大地震直後にもかかわらず、1000名で開かれた「in 岩手集会」で、「安易に制裁解除してはならない」というパネラーの発言に、会場から何度も盛大な拍手が寄せられた。

 この国民の拍手は、拉致を日朝交渉の入れ口で解決しないと、拉致被害者に危険が及ぶということを知っているからに他ならない。

 にもかかわらず日本の現状は、対米依存の体質が抜けきれていないから、「米国に従え」という風潮が顕在化し、救出運動は重大な困難に直面していると見なければならない。

 しかし、この10余年戦ってきた体験から、家族会・救う会・議連3団体内部に、山崎拓氏らに同調する声は全く聞かれない。

 6月21日付コラム「政府の方針は変わったのだ」で触れているように、政府の救出方針は、「先方(金正日政権)の行動に応じて、制裁の解除を順次行う」(6月17日町村官房長官の発言)というものだ。

 相手が動かない限り、政府から制裁解除はしないのである。日朝交渉の入れ口で拉致を解決するというス政府のタンスに変化は見られない。山崎拓氏らの主張とは明白に違う。

 だが、前述のように米朝の八百長劇に騙され、制裁解除、日朝国交正常化という声が増えて、政府の方針が再び動揺しないという保障はない。

 金正日政権の核施設の申告に対し、これから査察・検証が始まるが、プルトニウムの行方を徹底的に追及しなかったら、わが国の安全は重大な脅威に直面する。 

 政府は拉致問題と同レベルで、査察を断固主張・実施し、ヒル国務次官補の暴走を許してはならない。

 われわれは、あせらずに原則を貫き、現実に柔軟に対処し、いつでも、デモや座り込みなどが出来る準備を整えておくことが重要である。

更新日:2022年6月24日