再び読売新聞を批判する

佐藤勝巳

(2008. 6. 2)

 

 読売新聞の記者から「死亡している人について、その人を帰国させる交渉に、北朝鮮が応じるのか」(以下鍵カッコ内の引用は拉致対策本部事務局の作成資料から)と中山拉致担当首相補佐官に質問が飛んできた。

 現場にいたらちょっとした緊張した場面ではなかったかと推定される。誤解を恐れず言うと質問者の質を知るのに「面白い」質問であった。

 中山拉致担当首相補佐官は、5月28日、日本記者クラブで記者会見を行い、拉致問題に関する、①5月9日の読売新聞朝刊、②5月26日の毎日新聞朝刊、③5月27日の毎日新聞夕刊の報道は「事実と異なる」と反論した。

 続いて行われた質疑応答で読売新聞は、「日本政府も生存の証拠はなく、北朝鮮側は生存者はいないと一貫して主張している。六者協議が動きかけている今をチャンスと捉えるべきだ。人道支援、制裁措置の扱いを含め、拉致問題を動かすためには北朝鮮が具体的にどういう動きをとることが必要なのか、お聞きしたい」と質問している。

 中山首相補佐官は、「北朝鮮が拉致を認めて、帰国のための話し合いに入ることが大事である」と答えている。

 それにしても、読売新聞記者は奇妙な質問をしたものである。「人道支援、制裁措置の扱いを含め、拉致問題を動かすためには北朝鮮が具体的にどういう動きをとることが必要なのか」という。これは「日本政府は具体的にどういう措置をとるつもりなのか」とならないと変だ。

 なぜなら前段の「人道支援」もせず「制裁を延長した」のは、北朝鮮でなく日本政府である。従ってここは主語が「日本政府」にならないと支離滅裂の質問となる。

 また、「六者協議が動きかけている」というが、ヒル国務次官補と金桂寛外務次官との「野合」が進み、わが国の安全保障にとって非核が曖昧になり、危機が深まり、拉致解決が遠のく可能性が高まっていることを本欄で繰り返し指摘してきた。この事態を指して「チャンス」とは何を差して言っているのか。

 この記者は、6者協議の中身を全く知らないものと思われる。そうでなければ事実を誤認して、人道支援すべきだ、制裁は解除すべきだ、ということを言外に匂わせている。

 冒頭に紹介したように読売新聞の記者は、「死亡している人について、その人を帰国させる交渉に、北朝鮮が応じるのか」とも質問している(同じようなことを山崎派議員側も吹聴している)。

 この記者はやはり変だ。「死亡した」と言っているのは金正日政権であることを、忘れたとでも言うのか。

 横田めぐみさんが北朝鮮に拉致されているらしい、ということが日本で問題になりだした1998年春からである。それに対して金正日政権は「拉致などあずかり知らない。韓国情報部のデマとでっちあげ」と繰り返し言ってきた。

 ところが2002年9月、小泉首相(当時)が訪朝したら、金正日は日本人拉致を認めたではないか。それまで言ってきた「デマとでっちあげは」嘘だったということを、最高権力者の金正日自身が認めたのだ。

 また、拉致被害者の死亡診断書は、日本政府の追及で撤回している。さらに横田めぐみさんの遺骨も別人のものであることは明白になっている。

 更に、1970年代、80年代の金日成の発言を精査してみるがよい。「核開発の意思も能力もない」と機機会あるたびに発言してきた。しかし、06年秋金正日政権は核実験をした。この政権は全世界に向かって嘘をついてきたのだ。これは評価ではなく客観的事実だ。

 それなのに、読売新聞の記者だけが、金正日政権のいう「死亡した」という発言をどうして信用するのか。

 全くもって奇異である。もしかすると、この記者は北朝鮮の工作員ではないのか。いずれにしても、今後、読売新聞の朝鮮報道は厳重な注意が必要である。

 しかし、この記者会見の中で、読売新聞とは正反対に、「この間の一連の報道は、北朝鮮の『謀略報道』ではないのか」という質問が東京新聞からなされている。わが国の報道関係者のなかに、事態を正確に見ている記者がいるという事実も知って、ほっとした。

 記者会見の質疑応答の中であからさまには出なかったが、山崎拓派議員の周辺では、盛んに「安倍晋三政権以来、圧力と対話と言って金正日政権に制裁を発動してきたが、拉致は何も進展しない。制裁を解除し対話を進めるべきだ」という話がなされている。

 こんなことを口にしている人たちには、以下のような共通点がある。

 

①拉致をした金正日政権に対して怒りがない、他人ごとである。例えば、議連の幹部の一人民主党の岩国哲人議員は、「国民は拉致問題に拉致されている」(産経新聞5月21日)という誹謗中傷発言がよい例である。拉致問題も数ある懸案事項の一つという捉え方である。

 

②テロ政権を援助すれば、核やミサイル拉致問題が解決できる、という時代錯誤または事実誤認をしている集団である。

 「日朝国交正常化推進議員連盟」の顧問・加藤紘一自民党議員は、1995年(当時自民党政調会長)北朝鮮にコメ50万トン(国民の税金)を詐取された張本人だ。反省の色は全くないからのうのうと議連の顧問に就任しているのであろう。

 

③30年も40年も拉致を解決できないことを恥と思っていない。人間として冷たく、主権が侵害されているという自覚もできない誇りなき人たちだ。

 

④歴史から学ぼうとしない傲慢な人たちだ。

 韓国の金大中・盧武鉉両政権が北朝鮮に援助した総金額は推定で100億ドルといわれている。その結果は06年のミサイルと核実験となって現れた。そしてわが国の安全は重大な脅威にさらされることになった。

 わが国も韓国ほどではないが、この13年間に140万トンのコメを、日本人を拉致した金正日政権に援助してきた。その中心人物が河野洋平(衆議院議長)と加藤紘一議員の二人だ。今度山崎拓議員の名前が記されるのかどうか。

 私は、河野・加藤両氏から140万トン援助の主たる理由を、「日朝国交正常化交渉の席についてもらうため」と直接聞いている。

 しかし、北朝鮮は交渉の席につこうとしたか。これら政治家の誤判断で金正日に騙され、自国の安全を脅かすことになったのだ。金正日政権への援助は、自分の手で、自分の首を絞めること以外のなにものでもないのだ。

 それなのにまた同じことをこの集団は口にしている。裏に何か意図か思惑があると思わざるをえない。

 

⑤主体性はゼロ。ヒル国務次官補と金桂寛外務次官との「野合」が進むと、委員会の立ち上げだ、議連の結成だ、と騒ぎ出す。ブッシュ大統領が「ちょっと待て」と書簡を出すと、青菜に塩、のようにへなへなとなる。自分では汗をかかず、米朝の動きに便乗して漁夫の利を得ようとしている〝卑しい集団〟といわれても返す言葉がないはずだ。

 従って、核・ミサイル・拉致の同時解決は、日本から北朝鮮への送金停止、全輸出品目の輸出禁止など制裁の強化以外にないのである。

 それにても読売新聞は、拉致問題をはじめ、朝鮮問題に真面目に取り組まないと、かつての朝日新聞のように深い傷を負う。世の中を甘く見てならない。

更新日:2022年6月24日