ブッシュ「親書」を解読する

佐藤勝巳

(2007.12.25)

 

李明博氏大統領当選の意味

 韓国大統領選で保守中道派李明博候補が大勝利したことを心から歓迎する。今までの盧武鉉政権が悪すぎたこともあるが、韓国民の選択に拍手を送りたい。

 新大統領にとって、解決しなければならない課題は、経済を始め山積しているが、重要課題の一つが対北朝鮮政策の根本的見直しであろう。

 経済協力はすべて再検討、「北支援は核廃棄が前提」(産経新聞12月21日)と伝えられているが、当然のことである。

 しかし、これは金正日政権にとっては最悪の事態の到来を意味する。過去の金大中・盧武鉉政権の無原則的な北支援は、核開発、国民の人権蹂躙をほしいままにしてきた悪魔の個人独裁政権の延命の手助けに他ならなかった。金大中・盧武鉉政権は、金正日政権が「戦争するぞ」「不愉快だ」と発言すると、あわてて物やカネを献上してきた誇りなき従属政権の典型であった。従属などというと聞こえがよいが、単なるヤクザに脅され、おびえてむしり取られていた哀れな政権でしかなかったのだ。

 今度の李政権は「実利外交」という観点から人道問題を除いて見返りのない支援はしないと言っている。素晴らしいことである。新大統領の出現で、今まで北に対し融和路線をとってきた閣僚・官僚公職者数千名が交代する。従って、対北政策もメンバーもすべて仕切り直しとなる。

 北は、盧政権が首脳会談などでした約束の実行を迫るであろうが、それを巡っての交渉が延々と続くであろう。同時に南北間で動いていたモノ・カネ・人などが遅滞する。この場合北と南のどちらが困るかといえば、極端なまでに困窮している、時期として食べ物がなくなる「春窮期」に向かう金正日政権が困るに決まっている。第一、軍幹部らは食糧などの横流しの元手が韓国から入らなくなる。

 従って彼らの内部矛盾は激化していく。多分、李明博政権に「戦争するぞ」と脅しをかけてくるであろう。李政権がそのときどう対応するのか、「実利政策」の真価が問われるのはこの時、いや韓国民の決意と気概が問われるのはこの時である。

 

ブッシュ大統領親書

 ブッシュ大統領の金正日国家国防委員長宛の親書は1日に書かれ、訪朝したヒル国務次官補が5日、朴宜春外相に手渡したものである。中身は公表されていないので不明であるが、広く報道されているように、ブッシュ大統領が、年内に核の全施設の申告を促したものである、という。

 親書問題の最大のポイントは、一見当たり前のことをなぜ、この時期ブッシュ大統領がわざわざ親書という形で出したのかである。政府筋を取材して判明したことは、ブッシュ大統領が金正日に求めた申告内容は、①既存の核爆弾、②核爆弾の原料であるプルトニウム、③濃縮ウラン製造施設が含まれるというもの。要するに今までのヒルと金桂寛の交渉ではこれが含まれているのかどうか「霧がかかっていた」(外務省筋)のを、米大統領が霧を取り払ったことである。

 いま一つ、ヒルは北朝鮮からシリアに核が流出していたことに対して、「過去はともかく今は流れていない」旨発言していた。それに対してブッシュ大統領の親書には流出の事実を申告せよと書いてあるという(同筋)。

 注意している人は気が付いていると思われるが、親書以来それまで東京・ソウル・北京で必ずといってよいほど報道陣のぶら下がりで、北に対する「期待」を「狼少年」宜しく性懲りもなくおしゃべりをしていたヒルの発言が聞かれなくなったことである。

 以下は、私の解釈であるが、このヒルの動きを見るとブッシュ親書は、ブッシュの考えを金正日に直接伝えることによって、ヒルと金桂寛の間で進められていた「八百長劇」が米朝政権内部で、結果として暴かれることになった。

 金桂寛は、軍に対して寧辺のおんぼろ核施設の「無能力化」でテロ支援国家指定解除を勝ち取れる。後は、朝米国交樹立に持っていく」と説明していた可能性が高い。他方ヒルはまとめることが自分の成績に繋がるから、金桂寛に歩調を合わせてきた。そこにブッシュ親書が出たのである。

 北朝鮮軍は、ブッシュ親書の通りすべての核施設が申告されれば、次は「破棄」ということになる。核を持たない朝鮮人民軍など単なる「穀潰し」でしかない。国内における軍の地位は急速に地盤地下を起こす。核の放棄を軍が承知することなど100%あり得ない話である。それをあり得ると本気でヒルやライスが考えていたとしたら、人間社会の何たるかを知らない救いようのない無知である。

 多分、金桂寛はブッシュ親書によって、軍から「お前はわれわれを騙してきた」と責任を追及されているはずだ。ヒルは、ブッシュに対しても、関係者の全てに対して嘘をついたことになる。ヒルのおしゃべりが止まったのはこの親書のせいであろう。ブッシュ親書が出てから米国務省内のテロ支援国家指定解除の動きが止まっただけではなく、6者協議の動きも止まった。

 ところで、この時期にブッシュ大統領がなぜ「親書」を出したのかである。私の分析では、①北からシリアへの核流出は、核の拡散が危険水域に達していること。視点を変えて言うなら国際テロ集団に核技術がわたる可能性が高まり、米国の安保が危機に直面することである。②現情勢下で日米同盟に亀裂を入れてまでテロ支援国家指定解除はできないとのブッシュの政策判断がなされたものと見ている。

 だから金正日政権は、米日を激しく非難しだしたのだ。早晩、李明博氏にも批判が向けられるであろう。しかし、金正日政権に非難されて恐れる政権はいなくなった。金正日の体調も十分ではないようだし、北がこの難局にどんな手を打つのか、年末・年始、新韓国大統領が就任する2月25日頃まで北の動向に最大の関心を注いでいきたい。

更新日:2022年6月24日