旧社会党、共産党、旧総評に責任はないのか

佐藤勝巳

(2007.12.19)

 

 コラム「総聯に痛打―画期的な確定判決―」(12月13日付)を読んだ読者から「なぜこんなにも簡単に日本人が買収されるのか」との問い合わせの電話が複数あった。

 本題に入る前に、わが国と朝鮮半島の政治文化の違いに触れておかなければならない。古い時代のことは別にして、朝鮮半島がわが国の植民他支配から独立した後の南北の政権を見た場合、南は民主主義、北は共産主義とイデオロギーは対立していたが、統治形態は、最高権力者に権力が集中、トップダウンという点では共通していた。

 加えて共通していることは、権力者にカネが集まり、権力者はカネを出したものに特権を与え、利潤を保障してきたことだ。韓国における過去の現代財閥、今、問題になっている三星財閥は、いずれもオーナーが絶対的権力を持ち、権力と癒着して財をなしていった。

 北朝鮮の場合は、金日成・金正日が国家そのものを乗っ取り、国家財政を私物化し、工場・農場・軍隊・病院などに首領様や将軍様が機械や兵器・医療器具などを「下賜」するという形を取り、個人崇拝を醸成した。

 金正日の政治は、家臣である党幹部や将軍たちに日本の松坂牛などの高級食材を使ってご馳走する。更なる忠誠の高いと判断されたものには、トヨタやベンツなどの高級車を与える。居住も特別地区に住わせる。優遇された家臣たちは更なる忠誠を誓う。他方、金正日に忠誠希薄の者は情け容赦なく政治犯強制収容所に送り込む。このようにカネとモノ、暴力で忠誠心を「作り出している」。これが金正日政治の実態だ。

 この場合、金正日にとってなくてはならない存在が新潟港に入港してきていた万景峰号であったのだ。あの船を通じてカネや食材を始め核ミサイル関連の部品などが運ばれていた。それが止められたことは、蟹がハサミをもぎ取られたに等しい。金正日にとっての政治手段が奪われたことを意味する。制裁を疑問視する向きがあるが、そんなことを言っている人は、金正日政治の実態を理解していないからだと思う。

 他方、韓国では北朝鮮と違って大統領が国家財政を私物化は出来ないし、政治犯強制収容所もない。しかし、朴正熙氏を例外として、最高権力者である大統領は財閥からカネを集め、そのカネをばら撒いて政治を行っている。韓国の大統領がどんな手段で財閥からカネを集め、また、どんな方法でカネを使って政治を行っているかは、他に詳しく書いたものが沢山あるから省略するが、カネやモノを配り、食事などで接待し目的を達するという点では南北に基本的な差異は見られない。 

 こういう政治文化が支配する国に生まれ育った一世たちは、民団・総聯を問わず、自分たちの目的を達するために日本人政治家などに飲ませ食わせ、カネを配ることに何の抵抗もない、普通の行為なのである。

 

 日本の政治家に総聯から最も多額の政治資金が流れた時期は80年代後期のバブル期であった。「どんなに少なくとも『派閥の長には1億円は常識であった』」とは実際に政治資金を配っていた総聯幹部活動家から直接聞いた話である。民団系幹部からは「外国人から政治資金をもらってならないという政治資金規正法はおかしい」との不満を何度も聞かされている。 

 他方、接待をされる日本の政治家たちであるが、田中角さんに代表されるように実力者がカネを集めて盆暮れに「もち代」と称して政治家にカネを配って権力を保持していた。面白かったのは、金丸信氏が脱税で国税の手入れがなされたとき、自民党関係者から「後妻が来てから、もち代を配らなくなったからあんなことになった」(真実は米国の圧力だと推定されるが)という話が流布されていたことだ。

 いずれにしても例外を除けば、日本の政治家の懐はいつもカネに飢えている。したがってカネに弱い。飲ませ食わせ、献金を常とする朝鮮半島の政治文化に、日本の中で一番弱い集団ともいえる。特に、旧社会党系の朝鮮問題特別委員会の国会議員などは少額のカネで総聯の走り使いのようなことをしていた。総聯の中堅幹部は、政治資金を与えた政治家の秘書をまるで部下のように使っていたからすぐ分かった。

 旧社会党などは論外として、問題は自民党・保守系列の政治家たちである。彼らの中に個人独裁国家の残忍な本質を見抜くことが出来ず、総聯県本部の建物と公民館が同じとみなして固定資産税などを減免することに同意しているものがいることである。 これら政治家たちに、国家観、理念、歴史観など大層なことは求めないが、金日成・金正日の個人神格化をおかしいと思わず、それを支持している総聯に疑いを抱かないことが、問題なのである。

 金正日が拉致を認めた後も、幾つかの県議会レベルでの日朝友好議員連盟が北朝鮮を友好訪問している。この国の病気は相当重症なのである。

 問題に引き付けていうと「総聯県本部は公民舘と同じだ」という「理屈」を誰が考え付いたのだろう。こんなことは総聯の活動家が分かるはずがない。市会議員もまず分からない。一番よく知っているのは現場の役人、地方公務員である。この地方公務員の圧倒的多くは自治労の組合員でもある。

 総聯ともっとも親しかった労働組合は日教組で、次は自治労だ。自治労の組合員が総聯に知恵をつけたということはないのだろうか。なぜこんなことを推定するかというと、1980年代前半に在日韓国人から指紋押捺廃止の運動が起きた。登録事務は本来法務省の仕事であるが、実務を地方自治体に委託している。指紋押捺を廃止の手段として、窓口で押捺を拒否する活動家がいた。法律によれば、地方公務員は当該者を警察に告発しなければならないのに告発をしないという事件が川崎市で起きた。地方公務員が法の執行を拒否したのである。そこで言われていたことは自治労の指導によるものだということである。

 労組の中には今でも社会主義や共産主義を信じている活動家が珍しくないと聞く。総聯を同志と考えている人たちが沢山いたし今もいる。この人たちが、実は、現場で総聯の不当な要求を支持して来たのである。

 次に、国税の申告が団体で行われ、交渉で税額が決定されていることを危機と感じ取れない税務署の国家公務員の存在がある。国税庁の公務員たちは上記事実を皆知っていたはずだ。他方では、日本国民に対しては「マルサの女」に見られるように厳しい税務調査を実施し、総聯に対しては、税金が団体交渉で決定されていることに矛盾を感じないのだろうか。

 国税庁と朝鮮商工会の間で「合意」が出来た1976年ごろの国税庁労働組合は日本共産党の指導下にあり、公労協の中では戦闘的な労組の一つであった。この「合意」に対して、いや税金が団体交渉で決まっていく不平等性に対して国税の労働組合はいかなる態度をとったのか。当局の動きを総聯に流していたかもしれない。

 なぜなら、関東国税局は、10年ほど前に暴力団に射殺された東京在住総聯系在日朝鮮人で超有名な高利貸しを脱税容疑で調査し、関連で東京都台東区上野にあった「同和信用組合」(後で朝鮮信用組合と名称をかえる)に帳簿閲覧を要求したところ拒否され、機動隊400名動員シャッターをバーナーで切断、同信組に突入したのが1967年12月13日のいわゆる「同和信用組合事件」である。

 以来、総聯は全国組織を動員、全国の所轄税務署に「不当弾圧」として抗議行動を組織した。特に、総聯系在日朝鮮人多住地域の税務署は抗議という暴力のため、業務が出来なくなる事態がしばしば発生したという。

 この騒動の過程で総聯活動家から、税務署内部の情報がしばしば口にされた。曰く税務署幹部は「今度こそ朝鮮征伐をしてやる」と言っている、「警察に警備強化を要請した」という類の話が誇らしげに語られていた。なぜ、活動家たちがこんなことを知っているのか、不思議に思ったことを鮮明に記憶している。

 一体誰が総聯に税務署内部の情報を伝えているのか。国税労組の組合員以外考えられない。戦いが長期化すると税務署職員から「仕事にならない管理者はどうかしろ」という声が上がりだした。管理職は前から総聯に攻撃され、後ろからは職員に攻撃されるという事態に見舞われた。実際にあったかどうかは不明であるが、結果として総聯と国税労組の共闘ということになっている。前回のコラムで紹介した旧社会党高沢寅男副委員長の部屋で出来た「朝鮮商工人たちのすべての税金問題は、朝鮮商工会と協議して決める」という日本国にとって信じがたい「合意」が出来たのには以上のような経緯があった。日本の民主主義が総聯の暴力に屈した屈辱の日なのである。

 昨今問題になっている社会保険庁の年金問題であるが、あれは天降った高級官僚と自治労の癒着の産物である。国鉄労働組合の例を挙げるまでもなく、一体旧総評系労組とはなんだったのか。この人たちこそが日本をだめにした元凶集団の一つではないのか。

 それを不問に付し、年金問題が民主党には一切関係なく福田内閣に責任があるかのごとく小沢代表は声高に発言しているが、民主党の中には自治労の支援を受けて当選している国会議員が沢山いることを国民は知っている。そう遠くない将来、年金問題が民主党にとって天に向かって唾するような事態にならない保障はない。

 前回のコラムで指摘した対北朝鮮政策で信じがたいことが長年に亘ってまかり通った背景には、旧社会党・共産党・旧総評系、報道機関では朝日新聞、岩波書店などが社会主義に幻想を抱き、金日成・金正日の謀略を支えてきたことは周知の事実。この人たちの責任を不問に付すことは到底出来ない。

 政府を糾弾することで問題が解決するほど事態は簡単でないことを、われわれは改めて認識すべきである。

更新日:2022年6月24日