総聯に痛打―画期的な確定判決―

佐藤勝巳

(2007.12.13)

 

 この日本では信じがたいことが多い。朝鮮総聯の施設(県本部など)が公民館などと同じだという理由で、市など地方自治体が、総聯県本部などの建物に地方税を減免している、というのがその一つだ。

 どうしてこんなことが全国で起きたのか。自治体の首長や議会が自然発生的に総聯施設に税の減免措置をしたのだろうか。そんなことはあり得ない。総聯県本部の下には幾つかの支部がある。支部の活動家が県本部の指示にしたがって、市当局・市会議員を焼き肉屋などで飲ませ食わせの接待をして「ところで先生、減免措置を…」という話が全国で行われたから「総聯の建物が公民館に化けた」のだ。いわば総聯の工作が全国の地方自治体に浸透した結果である。

 実例を紹介する。1963年、在日朝鮮人の北朝鮮への帰国者の減少が顕在化してきた。すると総聯は同年5月1日のメーデーに(日本政府は当時、北朝鮮への渡航を禁止していたのに対して)「在日朝鮮人の祖国自由往来」が出来るようにと運動を提起し、帰国者減少の隠蔽をはかろうとした。

 その運動の手段の一つとして総聯中央は、地方議会の決議を採択させる方針を決めた。総聯が地方議会との接点を持つのはこのときが初めてであったと思う。あまりにも総聯の地方議員に対する飲ませ食わせの買収工作が目立ったので、私はある会議で総聯新潟県委員長に対して「運動としてこういうやり方は邪道だ」と直言した。

 県委員長は憤然として「あなたはわれわれの苦痛が分からないからそんな綺麗ごとを言っているのだ。決議を採択するのに女が必要なら女も用意する」という返事が返ってきた。彼らの表現はいつもオーバーだから額面どおりには受け取れないが、こんな調子であった。 話が横道にそれるが、運動としては邪道だが、へ理屈ばかり言って動きの鈍い日本人活動家に比べたら私はこういう一世活動家たちのバイタリーティーに内心敬意を抱いていた。

 要するに当時の日本人は首長や議長を初め、北朝鮮の〝工作活動〟がどういうふうに行われているかということなどを知らなかった。つまり、焼肉とビールで地方議会が買収されていった結果が、総聯の建物への税の減免であり、反日教育の拠点となった民族学校への補助金の支出なのである。

 減免措置は総聯の建物だけではなかった。総聯傘下の朝鮮商工会と国税庁の税金に関する「合意」も存在している。(総聯は、『総聯』という本の中で5項目の合意事項を紹介している)。その他、ミサイル部品・核関連資材の北朝鮮への無制限の流出、総聯傘下朝鮮信用組合の預金の金正日政権への搬出。

 そして、かつて県が監督官庁であった朝鮮信用組合は、私の知る限り県の担当者に飲ませ食わせ、お車代を渡し監査はフリーパ「ス(彼らは「友好監査」と呼んでいた)であった。やりたい放題の経営をした結末が破綻だ。すると日本政府は、「法律に基づき」1兆4千億円の税金を投入、救済するという「暴挙」をやってのけた。本当に笑い事ではない。総聯の側から言えば、〝工作〟が地方・中央政界・官界に浸透した「成果」なのである。

 私は、ここ十数年間上記のことを単行本や雑誌「現代コリア」を初め「諸君」などで書き続けてきたが、政治・行政機関から無視され続けた。安倍晋三氏が官房長官になって初めて「法の適正化」ということで取り上げられたのである。

 その具体的な表れが総聯中央本部の土地・建物の差押さえ問題なのだ。全国にある総聯の県本部の土地・建物の殆どが借金を返済できず差押さえられ、競売の対象となっている。また朝鮮信用組合は、法律などが改正されたため総聯は関与できなくなり、約束手形の割引も出来ず、総聯の資金繰りを困難にしている。これで総聯が崩壊したら、1兆4千億の公的資金導入が高いものではなかった、という見方も成り立つ。だから総聯の一部では自分たちの杜撰な経営を棚に上げて「これこそ高度に発達した資本主義国の弾圧の新しい手口」などという見当はずれの見方までが出ている。

 

 「救う会」熊本の加納良寛会長は、総聯熊本県本部施設に対する熊本市の減免措置は不当として取り消しの行政訴訟を起こした。06年2月2日福岡高裁は「朝鮮会館は朝鮮総聯の活動拠点で、日本社会一般の利益のための施設には当たらない」として施設の公共性を否定し、「減免措置は無効」の判決を下した。

 熊本市は判決を不服として最高裁に上告したが、最高裁は07年11月30日上告を棄却、福岡高裁判決が確定判決(取り消すことが出来ない判決)となった。したがって、総聯の施設に地方税の減免措置をとっている地方自治体は違法行為となる。判決確定後富山市は減免措置を撤回したという。

 考えてみれば確定判決は、マイナスをゼロに戻したものだ。この国は、上述のように日本人を拉致した金正日政権を100%支持している総聯に、同じ日本人が買収され総聯に特権を付与してきたのである。ここにきて漸く法の前の平等が実現した。この判決は「救う会」の拉致救出運動の中から生まれてきたものであるが、単に拉致救出だけではなく、日本の民主主義の再生に大きく寄与していることからも高く評価できるものである。

 問題の国税庁であるが、朝鮮商工会に相変わらず団体交渉で総聯系商工人の税金をきめているのだろうか。 

 この税に関する「合意」なるものは、30年前の1976年10月、当時日本社会党の副委員長東京4区選出の高沢寅男衆議院議員の議員会館の部屋で同議員立会いのもとで国税庁幹部と朝鮮商工会幹部とのあいだで成立したものである(国税庁は商工会幹部と会ったことは非公式に認めている)。総聯系商工人はこのときから税の申告を個人ではなく、当該税務署と当該朝鮮商工会との交渉で税額が決定されるという、信じがたい法の前の不平等が出現したのである(1999年2月22日参議院予算委員会総括質問で国税庁は「不平等なし」と否定している)。

 総聯系在日朝鮮人は、日本国家に納めるべき税金を金日成・金正日政権に納め、そのカネで日本からミサイルの部品や、核兵器関連の資材を購入し、遂に核実験するに至っている。日本は、自国の安全が脅威に晒され、初めて慌てているという醜態を演じている。

 さらに金正日が02年に拉致を認めているのに、5年経っても解決できず、米国に「テロ支援国家指定を解除しないで欲しい」と要請しなければならない状態に置かれている。情けないことであるが、これこそが第二次世界大戦後日本を支配してきた「平和と民主主義」の実態である。

 しかし、総聯に対する法の「適正化」(特権の剥奪)が進むにしたがって、総聯組織にいたら「危険」ということで組織離れが進んでいるという。今回の福岡高裁判決が確定したことで、総聯の衰退はさらに進み、金正日政権への打撃となっていくであろう。われわれは拉致解決のため追撃の手をゆるめてはならない。

 

 なお、「総務省の今年度の課税調査状況では総聯関連施設のある全国133自治体のうち、75の自治体が固定資産税などを減免する優遇措置を取っている」(産経新聞12月1日より)という。

更新日:2022年6月24日