非核を裏切る―危険なブッシュ政権

――ヒル国務次官補発言にみられる

佐藤勝巳

(2007.11.20)

 

 日本ではヒル米国務次官補といえば6者協議の米国代表として、「有名人」である。外務省の外交官は別にして、それ以外の日本人でヒル氏とテロ支援国家指定解除(以下「リスト解除」と略す)問題でこれほど突っ込んだ論議がなされ、公表されたのは「救う会全国協議会ニュース」(2007、11、16)が最初である。

 拉致議連、家族会、救う会3団体が、ヒル氏に会ったのは11月15日12、00~45までの45分間である。

 日本側発言者は平沼赳夫議連会長、中井洽会長代理、古屋圭司事務局長、松原仁事務局長代理・拉致議連幹部が、一致して指摘したことは国務省が「6ヶ月以内にテロを行っていないことが解除の条件というが、拉致は未解決で現在進行形で続いている。日本人は解除に絶対納得しないし、日米同盟によくないことがおきる」という主張が異口同音に語られた。

 これに対するヒル氏の答えは、上司の意を体して行動していると断った上で、拉致はひどいことであると指摘し、ブッシュ大統領も横田めぐみさんの家族に会って大変心を痛めていると拉致を理解している旨強調した。次に、北朝鮮はルールにのっとって行動しないし約束を守らないと批判をした。拉致については「私は何時も交渉で拉致問題を取り上げて、全ての交渉で回答を求めているが答えがない。私が求めていないから解決しないのではなく、北朝鮮がそれをしないから解決しないのです」と北朝鮮に責任があると発言した。

 更に、「北朝鮮に対してはっきりと日本との悪い関係を続けては未来がないと伝えている。米朝がよくなるかわりに日米が悪くなることは決してありえないと伝えている」と述べているが、日本の国会議員の「拉致はテロ」という認識に立って「リスト解除するな」という要請には全く答えていない。

 また、家族会増元照明事務局長から「2003年にアーミテージ国務副長官(当時)は私たちに拉致は『現在進行形のテロ』といわれました。国務省は何時からその認識を変えたのか教えて欲しい」と糾した。この問いにヒル国務次官補の答えは、「私はあなたの心配を理解している…(被害者の)名前を覚えていないので(拉致の)パンフレットをみながら取り上げている」などといって問いを回避した。

 松原議員が「拉致は現在進行形のテロであり、そう考えれば解除は出来ないはずだが、あなたはこの点についてどのように認識しているか答えて下さい」と追求すると、国務次官補は、リスト解除は法律で決められたもので「私は法的な解除について話す立場にはない。私のレベルで解除を決定するものではない」「解除は譲歩を引き出す一つの手段と見ている。こちらが譲歩する場合、北朝鮮から最大の譲歩を引き出したい。こちらは日朝関係をよくすることを求めている。ただし個人的考えはいえない。リスト解除に関する決定権は、国務次官、国務副長官、長官、そして大統領というラインを上がり、大統領のレベルで決めます」と回答した。

 古屋議員が「解除の決定があなたのレベルでないのなら、解除しないように大統領に進言して欲しい。あなたは交渉のなかで北朝鮮に対して『拉致が解決されない限りテロ支援国家指定を解除しない』といって下さい。それで大きく変わる」とさらに追求すると、ヒル氏は「リスト解除は私のレベルで決定する問題ではない」と答えた。

 この答えに誤りはない。だが、日本側が提起した「拉致は現在進行形のテロ」という認識には最後まで言及を避けた。また、従来の国務省の「拉致はテロ」という認識と違うではないかとの指摘にも回答を忌避した。なぜか。言及したらブッシュ政権の都合で朝鮮政策を変え、その結果、日本人などの拉致解決を犠牲にして、日米同盟に緊張を作り出している張本人がブッシュ政権であることを認めざるを得ないからだ。

 また、ヒル氏は、リスト解除は、「譲歩を引き出す一つの手段」だといったが、寧辺の3核施設の「無力化」の中身を誰も知らない。分っているのは「ヒルと金桂寛だけではないか」(政府筋の話)と言われているほど不透明なものだ。

 金正日政権は、約束の核施設の申告もしていない。金正日政権の核放棄など全く見えていないとき、何故にブッシュ政権は、日米同盟に亀裂を作ってまで「リスト解除」を急ぐのか、最大の問題はここにある。

 11月19日のコラムで筆者が書いたように、背景にブッシュ政権の成績作りという低次元の問題が隠されているからである。事態がこうである以上、わが国はどう対処するのかである(つづく)。 

更新日:2022年6月24日