日米首脳会談を評す

佐藤勝巳

(2007.11.19)

 

日米首脳会談が終わった。

 米国務省がテロ支援国家指定解除(以下「リスト解除」と略す)を既定化しようとしていることは公然の秘密である。それに反対している福田首相にブッシュ大統領がどういう反応をするかに注目が寄せられていた。しかし会談が終わった後の両首脳共同記者会見で、「リスト解除」問題は触れられなかった。

 11月16日の日米首脳会談を視野に入れ、拉致議連平沼赳夫会長を先頭に、家族会、「救う会」全国協議会の3団体は、数日前からワシントン入りして、議会筋を始め国務・国防総省・国家安全保障会議など関係当局に、「リスト解除」は日米関係に否定的影響を及ぼす旨3団体の考えを伝え、了解活動を展開した。

 結果は、「リスト解除」問題は、上述のように首脳会談で何が話し合われたか「内容不明」となった。

 「リスト解除」問題をブッシュ大統領の側から見ると、もし6者協議で「無能力化」が実現できなければ、イラク・アフガニスタンなど中東政策の失敗、極東でも金正日に核実験をされ、その上、シリアに核の流出を許し、「無能力化」にも失敗となれば、「最低の大統領」ということで終わりが近づいている。何とか「無能力化」で格好を付けたい、というのがブッシュ政権の置かれている客観的状況であろう。

 金正日政権は、このブッシュの弱みに付け込んで、「リスト解除」をしなければ「無能力化」に応じないとの態度に出て来た。ライスとヒルはまとめなければならないという「命題」(弱点)を抱えているから果てしない後退を余儀なくされている。その典型は「無能力化」の中身がいまだ米国関係者にも分からない(日本政府筋の話)という信じがたい状態に現れている。

 さて、自民党は参議院選挙で大敗し、インド洋上の給油活動から撤退、国際的テロとの戦いから離脱した。そのため福田首相のブッシュ大統領に対する「日本人拉致はテロだから『リスト解除』するな」という主張は著しく説得力を欠くものとなっている。もし、ブッシュ政権が、福田首相の意向を無視して「リスト解除」に動けば、福田首相は、ピンチに立たされ政治運営が更に困難となり、給油開始時期がますます遅くなっていく。これはブッシュ政権にとってマイナスという状況下での日米首脳会談であった。

 したがって、「リスト解除」問題の中身を公表できなかったのは、平行線か、問題の先送りかのいずれかであったと推定される。

 しかし、日本人の拉致は、基本的には日本が解決すべきもので本来、米国などに依存すべき事柄ではない。今からでも遅くない日本独自で金正日政権から拉致被害者をどうして奪還するか、根本的に戦略を立て直すべき時である。

更新日:2022年6月24日